石川不二子 (いしかわふじこ)
1933年~2020年 神奈川県出身。歌人。本名は黒井不二子。
1950年、17歳の年に短歌結社竹柏会「心の花」に入会。 佐佐木信綱に師事する。21歳の1954年、東京農工大学農学部在学中『農業実習』で短歌研究新人賞で次席となる。(この時の受賞者は中城ふみ子)それが縁で中井英夫と出会い、寺山修司と交流する。前衛短歌時代にあって、中城ふみ子に対比されるところもあったが、清純派歌人として、歌壇デビューを果たした。
歌は一定の流風に定まらず、心のままに自在に歌っている。清純でナイーブな魂を持ちつづけ、自然に対しての敬虔の情が歌の一つの源泉と なっている。大学を卒業後、高校教師を経て島根県三瓶山麓の集団共同開拓農場に入植。岡山県に鳴滝農場を設立し、酪農業に従事する。
1977年、第一歌集『牧歌』で第1回現代短歌女流賞受賞。1989年、「鳩子」30首で第25回短歌研究賞受賞。2009年、歌集『ゆきあひの空』で第43回迢空賞、第7回前川佐美雄賞、第11回岡山芸術文化賞グランプリ受賞。
石川不二子 短歌
荒れあれて雪積む夜もをさな児をかき抱きわがけものの眠り 『牧歌』
牛のごとき女となれときほひたつ頬のほてりにうちつける雨
おもひなく見てゐし枇杷の白き花陽あたる花に蜂はあつまる
ストーヴの上にのせおきし牛乳が甘く匂ひて煮えはじめたり
農場実習明日よりあるべく春の夜を軍手軍足買ひにいでたり
のびあがりあかき罌粟咲く、身をせめて切なきことをわれは歌はぬ
穂の光るくさむらの中山羊の仔は角もてば緬羊の仔を退けつ
ぼろぼろの青春をみんなが生きてゐる寮舎の片隅にわれをいたはる
ゆたかなる雨濺ぎつつこの峡に木の芽白きもひとときのこと
ライラックの蕾ひそやかにまだ固しわれらの恋もあをしと思ふ
ざわざわとゐし斑猫の失せてより秋天二十日晴れきはまれる 『野の繭』
とびちがふときゆるやかに紋白蝶とすずめ子とをり菜の花のうヘ
野に山に桔梗の花の咲きいでぬはらわた寒きわれを知らゆな
葉ざくらの一樹射るごとひらめきし稲妻は二度三度にてやむ
初盆と人は言へどもわが思ふ一切精霊の中に母居ず
るりたては瑠璃の紋ある翅ひらくくもりあまねき天より降り
われらなど住むべきならじ山鳩の色うつくしく棲まふ松やま
はちくまといふ鷹恋ほしゆらゆらと熱出でて漂ふごとき目ざめに 『鳥池』
葉ざくらとなりて久しとおもふ木のをりをりこぼす白きはなびら 『鳩子』
石川不二子 著作
- 牧歌 歌集 不識書院 (1976年)
- 野の繭 歌集 不識書院 (1980年)
- 鳥池 歌集 不識書院 (1989年)
- 鳩子 歌集 不識書院 (1989年)
- さくら食ふ 歌集 不識書院 (1993年)
- 水晶花―石川不二子歌集 歌集 短歌新聞社 (1996年)
- 高谷―石川不二子歌集(現代女流短歌全集) 歌集 短歌新聞社 (2000年)
- 石川不二子歌集(現代歌人文庫 7) 歌集 国文社 (2000年)
- ゆきあひの空 歌集 不識書院 (2008年) 〈参考:ウィキペディア〉
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