【穂村 弘】『24選』 知っておきたい古典~現代短歌!

七竈 (ななかまど)

七竈 (ななかまど)

穂村 弘 (ほむら ひろし)

1962年~ 札幌市生まれ。 歌人。批評家、エッセイスト、絵本の翻訳家。

歌誌「かばん」所属。 『サラダ記念日』の出現以降、加藤治郎、荻原裕幸とともに1990年代の「ニューウェーブ短歌」運動を推進した歌人の一人。口語短歌をさらに快適にし、洗練させた代表的文体は革新的。荒唐無稽になりがちな題材を落ち着いた修辞力でまとめる実力者。

穂村 弘 歌集

1990年 第一歌集『シンジケート』 沖積舎

1992年 第二歌集『ドライ ドライ アイス』 沖積舎

2001年 第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』 小学館

2003年 ベスト版『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』 小学館

2018年 第四歌集『水中翼船炎上中』  講談社

穂村 弘 短歌

「あなたがたの心はとても邪悪です」と牧師の瞳も素敵な五月  『シンジケート』

雲のかたちをいえないままにきいている球場整備員の口笛

暗い燃料フエルタンクのなかに虹を生み虹をころしてゆれるガソリン

呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」 と貴方は教えてくれる

水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの肩を抱けば

ゼラチンの菓子をすくえばいま満ちる雨の匂いに包まれてひとり

空の高さを想うとき恋人よハイル・ヒトラ ーのハイルって何?

体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ

卵産む海亀の背に飛び乗って手榴弾のピン抜けば朝焼け

ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ

眠れない夜はバケツ持ってオレンジのブルドーザーを洗いにゆこう

百億のメタルのバニーいっせいに微笑む夜をひとりの遷都

ボールボーイの肩を叩いて教えよう自由の女神のスリーサイズを

ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は

郵便配達夫メイルマンの髪整えるくし使いドアのレンズにふくらむ四月

「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」 「ブーフーウーのウーじゃないかな」

お遊戯がおぼえられない君のため瞬くだけでいい星の役 『ドライ ドライ アイス』

お遊戯がおぼえられない僕のため嘶くだけでいい馬の役

校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け

信じないことを学んだうすのろが自転車洗う夜の噴水

泣きじゃくりながらおまえが俺の金でぐるぐるまわすスロットマシン

眠ってるおまえの睫毛をひっぱればガソリ ンスタンドに響く賛美歌ハレルヤ

乳母車にカメラを乗せて押しゆけり 近未来ここは紅葉の雪崩れ  (歌集未収録)

まぼろしの父を想いて羚羊の純白の胸にむけるリモコン

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