【安永 蕗子】『23選』 知っておきたい古典~現代短歌!

マンデビラ

マンデビラ

安永 蕗子 (やすなが ふきこ)

1920年~2012年 熊本県生まれ。歌人。書家。号は春炎。

1938年(昭13)県立第一高等女学校卒業。 1940年(昭15)熊本師範学校(現熊本大学)卒業。 1954年(昭29)父、安永信一郎の歌誌「椎の木」に加わる。

1962年、第一歌集『魚愁』は、戦後社会を背景に闘病の体験を持ちながら、自身の生を切り拓いてゆく、繊細にして女性の意識の確かさを基底とする。

安永 蕗子 歌集

1962年 第一歌集『魚愁』     有紀書房

1969年 第二歌集『草炎』     東京美術

1977年 第三歌集『蝶紋』     東京美術

1979年 第四歌集『朱泥』     東京美術

1982年 第五歌集『藍月』     砂子屋書房

1985年 第六歌集『讃歌』     雁書館

1987年 第七歌集『水の門』    短歌新聞社

1987年 第八歌集『くれなゐぞよし』砂子屋書房

1988年 第九歌集『閑吟の柳』   雁書館

1990年 第十歌集『冬麗』     砂子屋書房

1992年 第十一歌集『青湖』    不識書院

1994年 第十二歌集『紅天』    砂子屋書房

1996年 第十三歌集『流花伝』   短歌研究社

1997年 第十四歌集『緋の鳥』   本阿弥書店

2000年 第十五歌集『海峡』    砂子屋書房

2003年 第十六歌集『褐色界』   砂子屋書房

2009年 第十七歌集『天窓』    短歌研究社

安永 蕗子 短歌

生き耐へて言葉とならぬかなしみも桃の花芽に刺さるるごとし 『魚愁』

うす紅のわたが透きたる干魚を焙りゐて心想はぬ夕べ

橄欖オリーブの岬をめぐり逢ひにゆく病めば晩果のごとき少女に  

霧たちてかすかなれども昏れがたの町の広場に組む獅子のをり

こもごもに曳く生活を蕭条の水脈みをとし魚場のなかの船団  

失楽の日々といはねど陽のなかの階くだるとき折るる吾が影  

つきぬけて虚しき空と思ふとき燃え殻のごとき雪が落ちくる  

何ものの声到るとも思はぬに星に向き北に向き耳冴ゆる  

花の名を読めば異国の声となる吾ら逃避のごとく薔薇園  

風塵の激しき町に棲みわびて内なる声のむときもなし

薔薇

薔薇

水曇る夕べの岸にひしひしと人がカルバのごとき石積む   

紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく 

蘇りゆきたる痕跡あとのごとくして雪に地窖が開かれてゐつ  

雑草あらくさに風立ちながら夏花壇その夜明けまで懊悩やまぬ 『草炎』

うねたてて緋芥子ひけしの種子をこぼしゆくこのひとすぢの帰依のかなしさ  

月差して荒野の如き古だたみしづけき我も秋のけものか  

夏昏れて一村涸るる切崖きりぎしになだるるごとく緋の曼珠沙華   

竹むらに急なる雪の坂つづく竹をつかみてゆきし痕見ゆ 『蝶紋』

光芒を消して落ちゆく秋の日をいささかの距離あれば見て立つ 『くれなゐぞよし』

湖づたふ径の歩みもおのづから鴨の啼き音を踏むごとくゆく 『青湖』

咥へなほし咥へなほして鮒一尾呑みこむまでのしろきかな  

暗紅の花それとなく触れて来る山萩我の齢を知るか 『紅天』

百本の土耳古桔梗を携へしかかる時間の濃密あはれ

 

 

コメント