ヨモギは日本の野山に昔から自生し、春の若葉は食卓に彩りを添え、また薬としても古くから親しまれてきました。キク科の多年草であるヨモギは、春になると新芽が顔を出し、その香り高い葉は草餅や炊き込みご飯などの料理に使われるほか、乾燥させた葉は「もぐさ」としてお灸に用いられ、民間療法でも重宝されてきました。止血や腹痛の緩和、冷え性改善、肌荒れ対策など多岐にわたる効能があり、「ハーブの女王」と称されるほど美容や健康にも良い影響が期待されています。
【ヨモギの特徴と歴史】
ヨモギは日本全国の野山や土手に自生し、高さは1メートルほどに成長します。春先の若葉は特に柔らかく食用として最適です。秋には小さな花を咲かせ、その生命力の強さから「四方草(よもぎ)」とも呼ばれ、広く繁殖する様子が名前の由来と考えられています。別名には「餅草(もちぐさ)」や「艾(もぐさ)」、「指燃草(さしもぐさ)」、沖縄では「フーチバー」とも呼ばれています。
古代からヨモギは薬草として重宝されてきました。乾燥した葉を集めて作る「もぐさ」はお灸に使われ、身体を温める効果があります。また、よもぎ蒸しや入浴剤として利用されるほか、生葉を切り傷や虫刺されに直接あてる民間療法も伝わっています。豊富な食物繊維が腸内環境を整え、美肌効果や抗酸化作用によって老化予防にもつながります。香りには神経を落ち着かせるリラックス効果や安眠効果があり、抗菌作用やデトックス効果も期待されています。
【文学と短歌に見るヨモギ】
日本文学や短歌にもヨモギは度々登場します。その独特な香りと生命力豊かな姿は、多くの詩人や歌人に愛されてきました。例えば、『百人一首』51番の藤原実方朝臣の歌では、燃える恋心をヨモギにたとえて詠まれています。また現代短歌にも多く詠まれており、大下一真氏や馬場あき子氏などが自然と共鳴する感性で表現しています。
永田和宏氏の短歌「蓬(よもぎ)と艾(もぐさ)はおなじかと言へば喜び言ひふらすらむきみは」では、ヨモギともぐさという同一植物の多様な顔を喜びとして語っています。また鯨井可菜子氏による「かつて屋敷ありしところにたよりなくゆれるよもぎよ 風に撫でられ」では、人々の暮らしと記憶をつなぐ植物として描かれています。このようにヨモギはただの植物以上に、日本人の生活や心情と深く結びついていることがうかがえます。
【文化的背景とエピソード】
日本だけでなく東アジア全体でもヨモギは重要な役割を果たしてきました。満州から朝鮮半島、中国大陸でも古くから薬草・食材として利用され、その文化的価値は高いものがあります。日本では端午の節句で菖蒲(しょうぶ)とともに厄除けとして飾られることもあり、季節行事との結びつきも深いです。
またアイヌ民族ではヨモギを揉んで傷口に当てる習慣があり、「揉み草」を意味する言葉がそのまま植物名となっています。このような伝統的な使い方は民間療法として現代まで継承されています。
よもぎの和歌、短歌
かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを/藤原実方朝臣
てんたう虫飛ぶときキラと光りたりよもぎ犬稗土に太りて/馬場あき子
かつて屋敷ありしところにたよりなくゆれるよもぎよ風に撫でられ/鯨井可菜子
蓬野に母ひざまづきにくしみの充電のごとながし授乳は/塚本邦雄
さうなのか蓬と艾はおなじかと言へば喜び言ひふらすらむきみは/永田和宏
畳屋の跡の空き地に背丈ほど伸びて勢いし蓬も枯れぬ/大下一真
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