雪と短歌
雪は冬を文学表現する中で最も愛されたものです。『万葉集』時代から、冬景色の中心に様々詠われています。『万葉集』の最終歌は大伴家持の「雪」の歌です。
雪の歌
わが里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくはのち 天武天皇
わが岡の霊に言ひて降らしめし雪の 推けしそこに散りけむ 藤原夫人
降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか 橘諸兄
新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事 大伴家持
あさぼらけ有明の月と見るまでによしのの里にふれる白雪 坂上是則
まつ人の今もきたらばいかぶせむ踏ままくをしき庭の雪かな 和泉式部
うすくこき野辺のみとりの若草に跡まで見ゆる雪のむらぎえ 宮内卿
山ふかみ春とも知らぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水 式子內親王
さゆる日のしぐれの後の夕山にうす雪ふりて雲ぞ晴行く 京極為兼
飯乞ふと里にも出でずなりにけり昨日も今日も雪の降れゝば 良寛
たのしみは雪ふるよさり酒の糟あぶりて食ひて火にあたる時 橘曙覧
春をまつ人にや見せむなたのうらの雪の中なる花さくら鯛 大隈言道
子を負ひて/雪の吹き入る停車場に/われ見送りし妻の眉かな 石川啄木
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋
あま霧し雪ふる見れば飯をくふ囚人のこころわれに湧きたり 斎藤茂吉
雪おける日本アルプスしののめの汝が清けさは人死なすべし 窪田空穂
あらはなるうなじに流れ雪ふればささやき告ぐる妹の如しと 近藤芳美
白きうさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り 斎藤史
おほいなる雪山いま全盲 かがやくそらのもとにめしひたり 葛原妙子
雪はまひるの眉かざらむにひとが傘さすならわれも傘をささうよ 塚本邦雄
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