春日井建(かすがいけん)
1938~ 愛知県江南市生まれ。歌人。
17歳頃から父瀇(昭和期の歌人 。1896~1979年。愛知県名古屋市出身)主宰の中部短歌会の機関誌 「短歌」に作品を発表。
1958年8月、角川書店刊「短歌」に「未青年」50首を発表して広く注目を集めた。同年、戦後歌人の『新唱十人』に参加。
1960年、塚本邦雄、岡井隆、寺山修司らと同人誌「極」を創刊。同年、17歳から20歳までの作品を集めた第一歌集『未青年』を作品社より刊行。三島由紀夫は序文に〈われわれは一人の若い定家を持つたのである〉との讃辞を呈した。
『未青年』は伝説的 な青春歌集となった。
1970年『行け帰ることなく』を刊行。
1979年、父瀇の死を契機として中部短歌会を継承する。
春日井建 短歌
赤児にて聖なる乳首吸ひたるを終としわれは女を恋はず 『未青年』
異郷の愛語をきくより熱し花市のせり台に鈍くひびく符牒は
ヴェニスに死すと十指つめたく展きをり水煙りする雨の夜明けは
唖蝉が砂にしびれて死ぬ夕ベ告げ得ぬ愛にくちびる渇く
学友の語れる恋はみな淡し遠く春雷の鳴る空のした
肩厚きを母に言ふべしかのユダも血の逆巻ける肉を持ちしと
声 あげてひとり語るは青空の底につながる眩しき遊戯
受胎の日未生のわれが持ちし熱保ちきて肉のわななき深し
少女の手とりて滑れば木崎湖を血だまりにしてわななく落暉
叛きたる者もみにくく帰りきて乳首のしたのしきりにさむし
磔刑の絵を血ばしりて眺めをるときわが悪相も輝かむか
童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり
独房に悪への嗜好を忘れこし友は脱けがらとしか思はれず
廃園に老童貞のなまぐさき手が埋めゆく花の球根
白球を追ふ少年がのめりこむつめたき空のはてに風鳴る
化粧する寝椅子の老嬢肥満して自由おぞましきアメリカの夜
廃品のくるまの山へ血紅の花束を投ぐジェ ームズ・ディーン忌
宇宙駅に着きし童話の少年を慕へばタベの星生れてくる 『夢の法則』
純潔の時はみじかく過ぎ去らむわれに透過光するどき汀
天秤に塩と精液この夜更け生きる悩みを量らむとして
夜をこめてこがらし光り雪はつむ白き童児をわが見ざれども
青嵐過ぎたり誰も知るなけむひとりの維新といふもあるべく 『青葦』
苦しめと親しき檄のとどき来ぬ光を組織する者やある
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