穂村 弘 (ほむら ひろし)
1962年~ 札幌市生まれ。 歌人。批評家、エッセイスト、絵本の翻訳家。歌誌「かばん」所属。
歌人としてだけでなく、批評家、エッセイスト、そして絵本の翻訳家としても幅広い活躍をしています。彼は「ニューウェーブ短歌」の中心的な存在の一人で、特に加藤治郎や荻原裕幸とともに1990年代にこの新しい短歌の潮流を推進しました。ニューウェーブ短歌とは、従来の短歌の形式や内容にとらわれず、口語を取り入れて表現の自由さや新しさを追求する運動です。穂村の短歌は、日常的な言葉を巧みに使い、ユーモアや独特の視点で現代社会の様々な側面を表現しています。
穂村の文体は、口語短歌をさらに快適で洗練されたものにし、従来の短歌の形式美を新しい形で打ち破っています。彼の作品は、一見荒唐無稽に思えるような題材や、平凡な日常の一コマを取り上げながらも、それを見事な修辞力でまとめ、鋭い洞察と感受性をもって読者に深い共感を与えます。作品の中で日常の些細な瞬間を切り取り、それを普遍的なテーマに昇華させる技術は、彼の代表的な特色です。
また、穂村はエッセイや批評でもその才能を発揮しており、現代短歌に関する多くの論評やエッセイを発表しています。特に短歌の創作における独自の視点やアプローチは、多くの若い歌人たちに影響を与えています。彼の創作と批評活動は、短歌という伝統的な文学形式を現代に適応させ、より多くの人々に楽しんでもらうための重要な役割を果たしていると言えるでしょう。
穂村 弘 歌集
1990年 第一歌集『シンジケート』 沖積舎
- 1992年 第二歌集『ドライ ドライ アイス』 沖積舎
2001年 第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』 小学館
2003年 ベスト版『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』 小学館
- 2018年 第四歌集『水中翼船炎上中』 講談社
穂村 弘 短歌
「あなたがたの心はとても邪悪です」と牧師の瞳も素敵な五月 『シンジケート』
雲のかたちをいえないままにきいている球場整備員の口笛
暗い燃料タンクのなかに虹を生み虹をころしてゆれるガソリン
呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」 と貴方は教えてくれる
水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの肩を抱けば
ゼラチンの菓子をすくえばいま満ちる雨の匂いに包まれてひとり
空の高さを想うとき恋人よハイル・ヒトラ ーのハイルって何?
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
卵産む海亀の背に飛び乗って手榴弾のピン抜けば朝焼け
ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ
眠れない夜はバケツ持ってオレンジのブルドーザーを洗いにゆこう
百億のメタルのバニーいっせいに微笑む夜をひとりの遷都
ボールボーイの肩を叩いて教えよう自由の女神のスリーサイズを
ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は
郵便配達夫の髪整えるくし使いドアのレンズにふくらむ四月
「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」 「ブーフーウーのウーじゃないかな」
お遊戯がおぼえられない君のため瞬くだけでいい星の役 『ドライ ドライ アイス』
お遊戯がおぼえられない僕のため嘶くだけでいい馬の役
校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け
信じないことを学んだうすのろが自転車洗う夜の噴水
泣きじゃくりながらおまえが俺の金でぐるぐるまわすスロットマシン
眠ってるおまえの睫毛をひっぱればガソリ ンスタンドに響く賛美歌
乳母車にカメラを乗せて押しゆけり 近未来ここは紅葉の雪崩れ (歌集未収録)
まぼろしの父を想いて羚羊の純白の胸にむけるリモコン
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