真鍋 美恵子 (まなべ みえこ)
1906年~1994年 岐阜市生まれ。 昭和~平成時代の歌人。
1926年(昭和元)「心の花」に所属。印東昌綱に師事。1949年「女人短歌」創刊に参加するなど、詠風は意欲的に変化していった。日常の「もの」や無機物などの姿を感覚的に捉えた文体が特色。1959年「玻璃」で現代歌人協会賞。1971年「羊歯は萌えゐん」が日本歌人クラブ推薦歌集。歌集に「真鍋美恵子全歌集」など。
真鍋 美恵子 歌集
1983年『真鍋美恵子全歌集』 沖積舎
真鍋 美恵子 短歌
産み終へて心安けしうつし身ににじみし汗の冷えゆく覚ゆ
つかれつつ歩めるタベ店先に玉子をあやふく人の盛り居り 『朱夏』
青きインク吸ひたる紙がなまなまと机にあり人はわれを妬めり 『玻璃』
果実の切口のごとみづみづと燈のともりたるビルが建ちゐつ
かすかに人の手のぬくみ残りゐるペン受けてわれも寄る署名簿に
劇薬をはかりし秤と硝子器と華麗なり八月の窓に見しもの
背の青く光る小蛇が這ひゆきしより岩肌のはげしき飢渇
空の藍流動感なき刻ありて垂直に立つ硝子あやふし
白昼をかすかに雷はきざしつつ孵卵器に卵のいまだ孵らず
ハンドルを強引に切りてゆくバスの窓にひしめくちがやの匂ひ
引込線のレール終りてゐるところみどりにとろむ午後の海見ゆ
夜の地の平らなる上徐々にしてつひに鮮烈に機体離れつ
エレベーターのてらてらと光る扉あり結氷よりも深き静止に 『蜜糖』
蜜糖のしたたるがごと重重と刻移りをり黒暗のなか
をとこののぼりゆく梯子撓へればいよよかがやく樹木も空も 『羊歯は萌えゐん』
八月のまひる音なき刻ありて瀑布のごとくかがやく階段
体臭の濃き犬が地に眠りをり見えずして近づく彗星はある 『土に低きもの』
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