明石 海人(あかし かいじん)
1901~1939年 本名は野田勝太郎。 静岡県出身。 昭和初期の歌人。
25歳の年にハンセン病を発症。それをきっかけに俳句、短歌、詩、エッセイなどの創作に打ち込む。
死の直前に歌集『白描』を刊行。死後の1939年にベストセラーとなる。
明石 海人 短歌
あらむ世を商買の類に生れきて色うつくしき酒は霧がむ 『白描 』
医師の眼の穏しきを趁ふ窓の空消え光りつつ花の散り交ふ
診断を今はうたがはず春まひる癩に堕ちし身の影をぞ踏む
捜り行く路は空地にひらけたりこのひろがりの杖にあまるも
たそがるる青葉若葉にいざなはれ何に堕ちゆくこの身なるべき
偶々に秋の日なかを降りたてば眼にはうつらね空のはるけさ
父母のえらび給ひし名をすててこの島の院に棲むべくは来ぬ
父我の癩を病むとは言ひがてぬこの偽りの久しくもあるか
つばくらめ一羽のこりて昼深し畳におつる糞のけはひも
時ありて言にもたがひ癩者我れ癩を忘れて君にしたしむ
鼻ありて鼻より呼吸のかよふこそこよなき幸の一つなるらし
一人の世の涯とおもふ昼ふかき癩者の島にもの音絶えぬ
降る雨の日暮はさむしあはあはと壁のよごれに灯は滲みつつ
路々にむらがる銀の月夜茸蹴ちらせばどつと血しぶきぞたつ
眼も鼻も潰え失せたる身の果にしみつきて鳴くはなにの虫ぞも
わが指の頂にきて金花虫のけはひはやがて羽根ひらきたり
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