【犬、狗】の歌『5選』知っておきたい古典~現代短歌!

夏の散歩道

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犬、狗 (いぬ)と短歌

犬(狗)は、人類が最も早く家畜として飼い始めた動物とされ、その歴史は非常に古く、深いものです。古代から現代に至るまで、犬は狩猟や家畜、番犬、そして愛玩動物として人間の生活に寄り添ってきました。その歴史や役割の変遷、そして和歌や短歌の中での犬にまつわる表現について、以下に分かりやすく解説します。

犬の歴史的な位置づけ

犬が家畜として飼われ始めたのは、原始時代にまで遡ると言われています。考古学的には、犬の骨や鼻をかたどった埴輪が出土しており、これらは当時の人々にとって犬が重要な存在であったことを示しています。さらに、文献資料としても古くから登場しており、最古の日本の書物である『古事記』や『万葉集』には、犬に関する記述がいくつも見られます。

『古事記』の一例として、乞食(物乞い)が外観の粗末さゆえに天皇の怒りを買い、許しを請うために白い犬を献上する場面があります。天皇は「このものは今日、道に映る珍しきものぞ」と言い、王妃への贈り物にしました。この記述から、白い犬が当時非常に珍重されていたことがわかります。また、一般的な犬は家畜としても広く飼育されていたようで、牛や馬と同様に農作業や移動の補助に使われたとされています。

また、奈良時代の文献である『万葉集』には、犬が道案内役や狩猟犬としての役割を果たしていたことが記されています。犬は主人を先導する「家の指導者」としても描かれ、犬が人々の生活に深く関わっていた様子が伺えます。さらに、犬の名前や役割に関する記述も多く、狩猟犬や愛玩犬としての犬も古代から存在していたことがわかります。

犬と和歌・短歌

古代から中世にかけて、犬は人々の生活に密接に関わっていたものの、和歌や短歌においてはそれほど頻繁に登場することはありませんでした。その理由として考えられるのは、犬が実利的な存在、つまり番犬や狩猟犬としての役割が強く、文学的なテーマとしてはあまり取り上げられなかったためです。

例えば、平安時代になると、上流階級では猫が愛玩動物として大切にされる一方で、犬は主に番犬や狩猟犬として使われました。特に放し飼いにされることが多く、時には野犬化していたこともあります。鎌倉時代以降になると、武士階級で犬が力強い存在として愛好され、犬が合戦の際にも利用されたという記録もあります。しかし、犬が戦や番をするという「実務的」な側面が強調された結果、文学や詩の世界ではあまり重要視されなかった可能性があります。

それでも、『万葉集』には犬が重要な役割を果たす例が見られます。犬が主人を守り、道を案内する存在として詠まれる歌があり、特に狩猟においては犬が不可欠な存在として描かれています。しかし、日常的な愛情表現や風流な趣を詠む場面では、猫や他の動物に比べて犬が登場する頻度は少なかったのです。

犬の短歌における復権

明治以降、西洋文化の流入に伴い、犬もペットとしての地位を確立しました。特に、洋犬が多く輸入され始めると、人々の生活の中で犬は再び注目されるようになりました。この時期になると、和歌や短歌においても犬がより頻繁に詠まれるようになり、犬は詩の中で愛情深い存在として描かれるようになります。

たとえば、犬が家族の一員として大切にされる様子や、主人との親密な関係が詠まれた歌が増えました。犬は単なる番犬や労働力ではなく、人間の心に寄り添う存在としての役割を果たすようになり、その姿が詩や歌に反映されるようになったのです。これによって、犬が和歌や短歌においても多くの詠み手にとって身近なテーマとなり、犬の存在が詩の中で広がりを見せていきました。

現代の犬と短歌

現代において、犬はペットとして非常に人気があり、愛情深く接する存在として多くの家庭で飼われています。犬に関する短歌も、感情豊かで温かみのある表現が増え、犬との日常的な交流や喜び、悲しみを詠む作品が多く見られるようになりました。

犬は、忠誠心の強さや愛情の深さ、そして人間との密接な関係から、現代の詩人や歌人にとってもインスピレーションの源となっています。日々の生活の中で、犬が見せる無邪気な行動や、主人との絆を詠む歌は、多くの共感を呼んでいます。現代短歌において、犬はまさに「家族」の一員として重要な存在となり、その存在が日常の風景として自然に詠まれるようになっています。

結論

犬は古代から現代に至るまで、人間との深い絆を保ちながら生活の一部となってきました。狩猟犬や番犬としての役割を担っていた犬が、時代を経て愛玩犬や家族の一員としての地位を確立し、その姿が和歌や短歌の中でもより親しみやすく詠まれるようになりました。犬と人間の関係は、実利的なものから感情的なものへと変化していき、その変遷が詩歌にも反映されています。

犬、狗 短歌

垣越しゆる犬呼びこして鳥狩とがりする君青山のしげき山辺に馬息め君 作者未詳『万葉集』

庭の外を白き犬ゆけり。/ふりむきて、/犬をはむと妻にはかれる 石川啄木

我が家の犬はいずこにゆきぬらむ今宵も思ひいでて眠れる 島木赤彦

一匹の犬の頭蓋づがいに穴あけし手術にわれは午前を過ごす 斎藤茂吉

くもりより明かり来れるみづ覗きてわれは犬のごときか 宮柊二

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