大野誠夫 おおののぶお
1914~1984 茨城県出身の歌人
反俗的な姿勢と疎外者の悲哀を底流に持ちながらも、明るい抒情性を特質とする作品を残しました。第1歌集『薔薇祭』は、一瞬の荒廃した都市の風俗を歌った作品とされています。第二歌集以降、大野は事実を重視し、絵画的な表現と美意識を育て人生を深く見つめる作品風に進化。 「虚構論」を含む論考を発表し、短歌における新たな視点を提供しました。
大野誠夫 短歌
一杯の熱きココアを啜るさへ冬の奢りに似つつ語らふ 『薔薇祭』
クリスマス・ツリーを飾る灯の窓を旅びとのごとく見てとほるなり
孤独なる思に沈み倚りし卓古りし酒場のマダムも老いて
絶望に生きしアントン・チェホフの晩年をおもふ胡桃割りつつ
地下道のうす暗がりにいのち生き哀しき子らはいかに育たむ
兵たりしものさまよへる風の市白きマフラーをまきゐたり哀し
惜しみなく愛せしことも美しき記憶となして別れゆくべし 『行春館雑唱』
傘掲げ駅頭に待つ妻のむれ夕まぐれ淡き雪は包まむ
東京に出でて女優になることもひと生の恋に似たるかなしみ
船窓より異国のやうに見てをりぬ山のホテルに灯が点きにけり
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