阿木津 英 (あきつ えい)
1950年~ 本名 末永英美子 福岡県出身。歌人。
現代短歌界で大きな影響を与えた歌人。彼女はフェミニズム思想を短歌に導入し、「女歌運動」において重要な役割を果たしました。また、短歌結社「八雁(やかり)」を主宰し、現代短歌の発展に尽力しています。
福岡県立京都高等学校を卒業後、九州大学文学部で哲学科心理学を専攻。卒業後は出版社や児童相談所の心理判定員、塾の教師などの仕事に従事しながら、歌人としての活動を続ける。彼女の短歌活動は、石田比呂志に師事。1974年、石田が主宰する短歌結社「牙」に参加し、その後石田と結婚しますが、1985年に協議離婚。離婚後、東京に移住し、さらに歌人としての活動を本格化させます。
1979年に「紫木蓮まで」という30首の短歌で短歌研究新人賞を受賞しました。1980年には第一歌集『紫木蓮まで・風舌』を出版し、現代歌人集会賞を受賞します。この歌集は、彼女のフェミニズム的視点と女性の生き方を反映した作品として評価され、短歌界に新風を吹き込みました。
1984年には第二歌集『天の鴉片』を出版し、現代歌人協会賞と熊日文学賞を受賞。この時期、彼女はフェミニズムに関する議論やシンポジウムの開催にも積極的に取り組みました。1983年には河野裕子や道浦母都子らと共に「おんな・短歌・おんな」と題したシンポジウムを名古屋で開催し、女性の視点から短歌を考える場を提供しました。また、2001年には「あまだむ」創刊10周年記念シンポジウム「ナショナリズム・短歌・女性性」を開催し、女性と短歌に関する問題提起を続けました。
2003年には「巌のちから」30首で短歌研究賞を受賞し、フェミニズム短歌の先駆者としての名声をさらに高めました。また、2012年には島田幸典と共に「八雁」を創刊し、現代短歌の新たな可能性を模索する活動を展開しています。
2022年に『アララギの釋迢空』で日本歌人クラブ評論賞を受賞。その後も短歌とフェミニズムの問題を追求し続けています。彼女の作品は女性の視点から社会や人生を鋭く描き出し、現代短歌界において重要な存在となっています。彼女の短歌は、個人の内面と社会的な問題を絡めた深い洞察力を持ち、現代に生きる女性たちに大きな共感を与え続けています。
歌集
『紫木蓮まで・風舌』(第7回現代歌人集会賞) 『天の鴉片』(第28回現代歌人協会賞)『白微光』『阿木津英歌集』『イシュタルの林檎』『巌のちから』『二十世紀短歌と女の歌』 『黄鳥 1992〜2014』など
阿木津英 短歌
ああああと声に出だして追い払うさびしさ はタイル磨きながらに 『紫木蓮まで・風舌』
いにしえの王のごと前髪を吹かれてあゆむ 紫木蓮まで
産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか
女をば換うれば性欲兆すという生理学的根拠ありや否や
唇をよせて言葉を放てどもわたしとあなたはわたしとあなた
魂を拭えるごとく湯上りの湯気をまとえる乳をぬぐえり
注文をするとき笑みているわれを肉屋の鏡のなかに見出でつ
饅頭の類思いてこの昼のあらき食欲をしずめとす
自らのこころ幾つ記した夕ぐれにして牛の臓食う
あけぼのをもつれつつ来て遠ぞける鴉ふたつの二いろの声 『天の鴉片』
崖畑を高き道路の下に見つ二うね揺らぐは韮の玉花
コメント