石川信雄(信夫) (いしかわのぶお)
1908~1964年 埼玉県豊岡町生まれ。信夫とも。歌人。
大学在学中より前川佐美雄・筏井嘉一等と作歌活動を始める。1930年(昭和5年)「エスプリ」を創刊。1931年(昭和6年)「短歌作品」、1934年(昭和9年)「日本歌人」創刊に参加。
昭和初めの新興芸術派歌人として、前川佐美雄に比肩する存在であった。『シネマ』は前川の『植物祭』と並ぶモダニズムの歌集。
石川信雄は『シネマ』一冊で注目を集め、その後、戦中戦後の作を1954年『太白光』にまとめる。
石川信雄 短歌
あやまちて野豚らのむれに入りてよりいつぴきの豚にまだ追はれゐる 『シネマ』
今日われはまはだかで電車にのりてゐき誰知るものもなく降りて来ぬ 『シネマ』
われの眼のうしろに燃ゆるあをい火よ誰知るものもなく明日となる 『シネマ』
地下道にあふれる花等はればれとながれゆく先のみな見えてあれ 『シネマ』
壁にかけた鏡にうつるわが室に六年ほどは見とれてすぎぬ 『シネマ』
てんてんとそこらあたりに散らばれる怖れほど赤き花束はなき 『シネマ』
花苑のやうな合唱の波のなか舌足らぬ聲を探しはじめる 『シネマ』
すはだかにならうと決めた眼の前に街が木が顔が起きあがり來る 『シネマ』
鏡取りふとよく見れば木や海やわれならぬしろい笑ひもとほる 『シネマ』
黒ん坊の唄うたひながらさまよつた街の灯のくらさ今もおもはる 『シネマ』
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