釈超空(しゃく ちょうくう) 知っておきたい古典~現代短歌!

朝日と樹々

朝日と樹々の影

釈超空(しゃく ちょうくう)

1887年~1953年 大阪府生まれ。 歌人、民俗学者、国文学者、国語学者。

本名、折口信夫おりくち しのぶ

父秀太郎、母こうの四男として生まれる。木津尋常小学校、育英高等小学校、大阪府第五中学校に進む。 中学時代、級友の武田祐吉(国文学者)らと短歌を作る。「明星」や「文庫」を読み、また『万葉集略解』を筆写し、一方では明治版の『国歌大観』を読破する。

国学院大学で国学者、三矢重松の恩顧を受ける。1909年「根岸短歌会」に出席。伊藤左千夫、古泉千樫、土屋文明らを知る。

1915年に民俗学者、柳田国男と会い、国文学研究と民俗学の独自の学を形成。

1917年「アララギ」同人、1924年「日光」同人として活躍を見せた。 1925年第一歌集『海やまのあひだ』刊行。1939年小説 『死者の書」刊行。 1948年 『古代感愛集」で芸術院賞。1956年『折口信夫全集』 で芸術院恩賜賞を受賞。

 

釈超空 短歌①

青うみにまかゞやく日や。とほどほし 妣が国べゆ 舟かへるらし『海やまのあひだ』

秋たけぬ。荒涼さを 戸によれば、枯れ野におつる 鶸のひとむれ

かみそりの鋭刃の動きに おどろけど、目つぶりがたし。母を剃りつゝ

川霧にもろ枝翳したる合歓のうれ 生きてうごめく ものゝけはひあり

川原の愕の隅の繁みみに、夜ごゑの鳥は、い寝あぐむらし

葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり

髣髴顕つ。速吸の門の波の色。年の夜をすわる畳のうへに

これの世は、さびしきかもよ。奥山も、ひとり人住む家は さねさし

十方の虫 こぞり来る声聞ゆ。野に、ひとつ燈を守るはくるしゑ

たびごゝろもろくなり来ぬ。志摩のはて 安乗の崎に、燈の明り見ゆ

年の夜は明くる近きに、水仙の立ちのすがたをつくろひゐるも

ながき夜の ねむりの後も、なほ夜なる 月おしれり。河原菅原

鳴く鳥の声 いちじるくかはりたり。沖縄じまに、我は居りと思ふ

ひたぶるに月夜おし照る河原かも。立たす は楽師。坐るは 釈迦文尼

人も 馬も 道ゆきつかれ死にゝけり。旅寝かさなるほどのかそけさ

眉間に、いまはのなやみ顕ち来たる 母が命を死なせしとすも

ま昼の照りみなぎらふ道なかに、ひそかに 会ひて、いきづき瞻る

水底に、うつそみの面わ 沈透き見ゆ。来む世も、我の 寂しくあらむ

邑山の松の木むらに、日はあたり ひそけ きかもよ。旅びとの墓

青空のうらさびしさや。/麻布アザブでら/霞むいらかを/ゆびざしにけり『春のことぶれ』

 

釈超空 短歌②

木々から覗く朝日

木々から覗く朝日

おもかげに たつふる里や。/海凪ぎて、 /今日しも/人は、/潜きしてみむ

おもかげの広瀬中佐は、/よかりけり。/ 現しきものは/さびしかりけり

くりやべの夜ふけ/あかあか 火をつけて、/鳥を煮 魚を焼き、/ひとり 楽しき

しばしばも、/まどろむ我か。/うつうつに/子を見れば、/常にねむり居にけり 

月よみの光りおし照る 山川の水/磧のうへに、/満ちあふれ行く

旗じるし いふことやめよ。/我どちは、/おのが面すら/血もて塗りたり

髣髴顕つー。/速吸の門の波の色—。/年の夜をすわる畳の/うへに 『忍空歌選』

この国やいまだ虚国。我が行けば、あゝ下み 地震ぞより来る 『遠やまひこ』

赤松のむらたつ空は 昏れぬれど、幹立ちしるしー。真野のみさゞき 『倭をぐな』

あはれ何ごとも 過ぎにしかなと言ふ人の たゞ静かなる眉に 向へり

息づけば 遠きこだまのこたへする あまりしづけき春 いたりけり

いまははた 老いかゞまりて、誰よりもかれよりも 低き しはぶきをする

歌よみの竹の里びと死にしより 五年のちの畳にすわる

思ひつゝ還りか行かむ。思ひつゝ来し 南の島の荒磯を

基督の 真はだかにして血の肌 見つゝわらへり。雪の中より

事代主 古代の神を祖とする いとおほらかなる系図を伝ふ

しろじろと きだはし濡れて居たりけり。 身延のやまのあけぼのゝ 雨

たゝかひに果てしわが子の 我が為と、貯へし 銭いまだ少しき

たゝかひは 過ぎにけらしもー。たゝかひに 最苦しく 過ぎしわが子よ

人間を深く愛する神ありて もしもの言はゞ、われの如けむ

野も 山も 秋さび果てゝ 草高しー。人の出で入る声も 聞えず

真野の宮 砌におつる秋の葉の桂のもみぢ すでに 色濃き

ものおもひなく 我は遊べど、鳥の如 夜目ぞ衰ふ。米を喰はねば

耶蘇誕生会の宵に こぞり来る魔の声。少くも猫はわが腓吸ふ

夜ふけて 村ある山をくだりたり。渇きごゝろに、渓に近づく

わかき時 わが居し部屋の片すみに照りし鏡は、くだけつらむか

われさへや 竟に来ざらむ。とし月のいやさかりゆく おくつきどころ『折口信夫全集』

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