イチョウ(銀杏)|かんたん植物事典と短歌

銀杏

銀杏

イチョウ(銀杏、公孫樹、鴨脚樹)の歴史と育て方

**イチョウ(Ginkgo biloba Linne)**は、地球上で最も古い植物の一つであり、「生きている化石」とも呼ばれる植物です。約2億年以上前からその姿を変えることなく生き続けており、恐竜と同じ時代に存在していたことから、その強靭な生命力が注目されています。イチョウは、裸子植物に分類される落葉高木で、雌雄異株です。日本では街路樹や公園樹として一般的に見られ、特に寺院や神社の境内に多く植えられています。そのため、イチョウは日本の景観と深く結びつき、古くから日本文化の中で愛され続けてきました。

イチョウの歴史

イチョウの原産地は中国で、その歴史は非常に古く、遡ると数千年前から栽培されていた記録があります。イチョウの日本への伝来は不明ですが、室町時代にはすでに植栽されていたという記録があり、神社仏閣の境内や庭園でよく見られるようになりました。

特に、イチョウの大木は神聖視されることが多く、樹齢1000年以上の老木も日本各地に存在します。イチョウが長寿の象徴とされる背景には、その生命力と耐久性が大きく関わっています。病気に強く、火災や汚染にも耐えるため、都市部の街路樹としても多く採用されています。東京都のシンボルマークにもイチョウの葉が採用されているように、イチョウは日本の都市文化にも深く根差しています。

イチョウの特徴

イチョウは樹高が30メートル以上に達することもあり、都市のランドマークとしてもよく見かけられます。特に秋になると、イチョウの葉が鮮やかな黄金色に変わり、街路や公園を一面に染め上げるその光景は、秋の風物詩として親しまれています。

イチョウの葉は扇状で、葉の中央が切れ込んでいるのが特徴です。この切れ込みは木の年齢によって変化し、若い木では深く、年を重ねると徐々に浅くなります。また、まれに「オハツキイチョウ」と呼ばれる特異なイチョウが存在し、葉の上に種子をつけることが知られています。

イチョウの花は春に咲き、雄花は尾状に長く垂れ、雌花は枝先に2つの胚珠をつけます。イチョウの精子は受精の際に泳いで移動する性質を持っており、これは動物の精子に似た特徴です。1896年に日本の植物学者、平瀬作五郎が精子の存在を発見し、この研究成果は世界中の植物学者を驚かせました。

イチョウの育て方

水やり:
イチョウは根が深く張るため、成熟した木は乾燥に強くなります。若木の間は、特に植え付け後の数年間は、土が乾かないよう定期的に水やりを行いましょう。成長期には十分に水を与えることが大切です。成熟木の場合は、自然の降雨で十分ですが、特に夏の乾燥時期には追加の水やりが必要なこともあります。逆に、梅雨時や長雨の際は水はけに注意し、過剰な水分が根に滞留しないようにしましょう。

剪定:
イチョウは放置すると非常に大きく成長するため、庭木として管理する場合は定期的な剪定が必要です。剪定の最適な時期は冬の休眠期です。特に強く伸びすぎた枝や、樹形を乱す枝を剪定します。風通しを良くし、日光が樹全体に届くようにすると、病害虫の予防にもなります。高木になりすぎると管理が難しくなるため、早めに高さを抑える形での剪定が推奨されます。

病害虫対策:
イチョウは病害虫に強い植物ですが、特に若木は害虫に対して敏感です。アブラムシやカイガラムシが発生することがあり、これらの害虫が見られた場合には早めに駆除を行いましょう。また、葉に白い粉状のものが付着する「うどんこ病」が発生することがありますが、風通しの良い環境を維持することで予防できます。日光が当たりすぎない場所や、湿度が高い場所を避けることも、病気の発生を抑えるポイントです。

肥料:
イチョウは非常に強健な木ですが、成長を促進させるためには適切な施肥が有効です。特に若木に対しては、春と秋に緩効性の化成肥料や堆肥を与えることで、健やかな成長をサポートします。成熟木になれば、肥料はほとんど必要ありませんが、庭木として美しい葉を維持したい場合は、少量の肥料を年に1~2回施すとよいでしょう。

食用としての利用

イチョウの種子である「銀杏」は秋に黄色く熟し、食用として広く利用されています。焼き物、茶碗蒸し、炊き込みご飯など、日本料理で秋の味覚として親しまれています。銀杏にはビタミンやミネラルが豊富に含まれていますが、特に子供や高齢者が食べ過ぎると中毒症状を引き起こすことがあるため、適量を守ることが重要です。また、銀杏の果肉部分は悪臭を放つため、食べる際には果肉をしっかりと除去することが必要です。

薬用としての利用

イチョウの葉は、脳の血流を改善する効果があり、特にヨーロッパでは脳血管障害の治療薬として広く利用されています。日本でも漢方薬として、鎮咳作用や喘息の治療に用いられてきました。葉から抽出される成分は、脳機能の改善や認知症予防としても注目されています。種子である銀杏も、民間療法では呼吸器の不調を和らげる効果があるとして使われており、咳や喘息の改善に役立つとされています。

結論

イチョウは育てやすく、丈夫で長寿命の樹木です。観賞用としてはもちろん、食用や薬用としても利用価値が高く、古くから人々の生活に深く関わってきました。育てる際には、水やりや剪定、適切な病害虫対策を行い、美しい樹形と健康な木を維持しましょう。また、食用や薬用としての利用に関しても、その効果や利用方法を正しく理解し、安全に楽しむことが大切です。イチョウの美しい秋の黄葉や、多くの恩恵を享受するため、適切な手入れを行いながら成長を見守りましょう。

銀杏 短歌

高々と空晴れながら寺の庭に銀杏実おちぬ黄なる銀杏の実/結城哀草果

金色のちひさき鳥のかたちして銀杏散るなり夕日の岡に/与謝野晶子

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