【梅の歌】知っておきたい古典~現代短歌!

梅の花

梅の花

梅と歌の歴史

■ 梅の起源と日本への伝来

梅は元々、遠く中国で生まれた花です。バラ科のサクラ属に属する落葉高木で、古くは「むめ」とひらがなで表記されていました。朝鮮半島という橋渡しを経て、はるばる日本にやってきたこの花は、やがて日本人の心に深く寄り添う存在となっていきました。

■ 驚くべき品種の豊かさ

現代の梅は、大きく二つの系統に分かれています。一つは私たちの目を楽しませてくれる「花ウメ」。もう一つは、梅干しや梅酒などでお馴染みの「実ウメ」です。長い年月をかけて改良が重ねられ、今では300種類以上もの園芸品種が存在するんです。これは日本人が如何に梅を愛し、大切に育んできたかを物語っています。

■ 万葉人を魅了した白き花

奈良時代に編まれた『万葉集』には、実に100首を超える梅の歌が収められています。これは当時、桜の約3倍もの数だったんです!面白いことに、梅の歌の数は萩に次いで2番目に多いのです。

当時の人々は特に白梅を好んでいました。その清楚な姿に、どんな思いを託していたのでしょうか。厳しい冬の終わりを告げ、春の訪れを優しく知らせてくれる梅の花。その凛とした白い姿に、古の人々は清らかな美しさを見出していたのかもしれません。

■ 平安文化が育んだ紅梅の情緒

時代が平安に移ると、新たな美意識の変化が起こります。それまでの白梅に加えて、紅梅が人々の心を捉えるようになったのです。紅梅には、どこか切なく、懐かしい思いを誘う独特の魅力があります。

当時の貴族たちは、その薄紅色の花びらに恋心を重ね、過ぎ去った日々への想いを託しました。和歌には、紅梅の姿を通して、切ない恋の情緒が詠み込まれていきました。

■ 「探梅」という風雅な楽しみ

平安時代には「探梅(たんばい)」という風流な行事も生まれました。これは早春のまだ寒い時期に、咲き始めた梅の花を探しに行く風雅な遊びです。今でいう「お花見」の原点とも言えるかもしれません。

当時の貴族たちは、まだ残る寒さの中、梅の香りを求めて庭園を歩き回りました。その様子は、まるで宝探しのような楽しみだったことでしょう。

■ 桜との移り変わり

確かに平安時代以降、和歌や物語の世界では「花」といえば桜を指すようになっていきます。しかし、梅は決して人々の心から消え去ることはありませんでした。むしろ、早春を代表する花として、独自の位置を確立していったのです。

漢詩や和歌の題材としても、梅は特別な存在であり続けました。その香り高く気品ある姿は、日本の美意識の中で、桜とはまた違う独特の価値を持ち続けているのです。

梅の歌

わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも 大伴旅人 万葉集】

730(天平2)年正月、大宰帥大伴旅人が自邸で観梅の宴を催したときの歌32首が、万葉集おさめられています。当時の梅、特に白梅への愛好や奈良朝貴族文化と梅の関わりの深さをよく物語っています。

 

ひとはいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之】

春の夜の闇はあやなし梅花色こそ見えね香やはかくるゝ 凡河内躬恒】

 

君ならで誰にか見せむ梅の花 色をも香をも知る人ぞ知る 【紀友則 古今和歌集】

奈良時代の白梅好みに対し、平安時代には紅梅の人気が高まり、なつかしい人や過去への思いをかきたて、恋の情緒を濃く漂わせるものとして、うたわれることが多くなりました。

 

東風吹こちふかばにほひおこせよ梅花主なしとて春を忘るな 【菅原道真】

大宰府に左遷される菅原道真が自邸の梅が、後に死んだ主人を慕って筑紫まで飛んでいったという「飛梅」の伝説はあまりにも有名です。

 

夕庭は一樹ひときの海のしずかなる光のもとにわが一人ある/佐々木信綱

自転車おり片手額の汗ふきふき梅の木ゆさぶる此のいたづら児/佐佐木信綱

老梅にかぜたつ日なり浄行の聖者逝くと伝ふラジオは/佐佐木信綱

 

使ひ捨てのやうに手荒く棲んでゐる地球さびしく梅咲きにけり/馬場あき子
物思ふ心衰へゆくものを昼よりどつと梅の咲き出す/馬場あき子
大寒雲しづかに寄せてくる昼の白梅にゐる鵯のおごそか/馬場あき子
もうわづかな思ひ出だけでいいのかも風に流れる梅の花びら/馬場あき子
梅咲けば亡き人縁に立つやうなひととき昏み雪になるらし/馬場あき子
父亡きのち梅咲かざりき夫なき庭春の落葉の惨たる椿/馬場あき子
門の梅父の手植えの門の梅ひとりになつたわがために咲く/馬場あき子
門の梅一木ははやく咲きて散る一木はおくれ丁寧に咲く/馬場あき子
梅咲けばツルゲーネフの『散文詩』きみの声きくごとく取り出す/馬場あき子
すぎゆきはふと立ち止まり思ふとき遠い梅の香の中にあらはる/馬場あき子

 

熱いでて一夜寝しかばこの朝け梅のつぼみをつばらかに見つ/斎藤茂吉
春風の吹くことはげし朝ぼらけ梅のつぼみは大きかりけり/斎藤茂吉
くれなゐの梅はよろしもあらたまの年の始に見ればよろしも/斎藤茂吉
夏晴れのさ庭の木かげ梅の実のつぶらの影もさゆらぎて居り/斎藤茂吉
馬に乗り湯どころ来つつ白梅のととのふ春にあひにけるかも/斎藤茂吉
木のもとに梅はめば酸しをさな妻ひとにさにづらふ時たちにけり/斎藤茂吉
さみだれのけならべ降れば梅の実の円大きくここよりも見ゆ/斎藤茂吉
さみだれは何に降りくる梅の実は熟みて落つらむこのさみだれに/斎藤茂吉

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