【カカオ高騰】とチョコレート原料問題の全貌と今後

カカオ高騰

カカオ高騰

チョコレートが買えない日?原料カカオをめぐる舞台裏

普段、私たちの生活に溶け込んでいるチョコレート。甘い香りに包まれながら一粒口に運ぶだけで気持ちがほっと和みます。しかし2024年、チョコレートを形作るカカオという原料が、世界中でかつてない規模の価格高騰・供給不安に見舞われています。

日経新聞が2024年4月に報じたように、スイスの大手メーカー「バリーカレボー」の販売数量は前年同期比4.7%減少。アメリカ「モンデリーズ」も前年比減の決算を発表し、消費国のひとつ日本では、平均価格が147円(前年比31%高)に跳ね上がりました(2024年4月、日系POSデータ)。一見「高いな」と思うだけの値上げですが、その背景には世界規模で進む“原料カカオの生産不振”“流通の停滞”“資金流動性の枯渇”など、私たち消費者には見えない複雑な問題が横たわっています。

世界のカカオ豆の6割以上は西アフリカ、特にコートジボワールやガーナに集中。しかしこれらの国では異常気象や土壌の乾燥により収穫量が減少し、生産不振が続いています。日本のチョコレート大手メーカーや商社も調達先を多様化させるなど、重要な対策に乗り出さざるを得ない状況です。

「このままだと、いつもの板チョコが店頭から消える?」「子どもやお年寄りも楽しみにしている甘いおやつの未来は?」そんな素朴な疑問から、チョコレートの原料をめぐる経済・環境・流通を背景に、今起きている世界的なチョコレート危機の裏側を徹底解説します。小売価格の変動が家計や日常にどんな影響を及ぼしているのか、ビジネス界から農園、そして私たち消費者まで、一連の動きを詳しく追いかけてみましょう。

チョコレート原料「カカオ」とは?

カカオ豆―チョコレートの始まり

カカオは、カカオノキ(学名Theobroma cacao)の実から採れる種子で、チョコレートの主原料です。カカオの起源は中米とされ、古代マヤ文明やアステカ文明の時代から「神の食べ物」として珍重されてきました。カカオ豆は収穫後、発酵・乾燥・焙煎などの工程を経て香りと苦みを持った原料へと加工されます。

世界のカカオ生産量は「国際カカオ機関(ICCO)」によると、2022/23年度で約494万トン。そのうちコートジボワール(世界シェア約40%)、ガーナ(同約17%)、ナイジェリア、カメルーンと、アフリカ西部の4カ国で全体の66%を占めています(ICCO統計, https://www.icco.org/ )。近年、生産の一部はインドネシアや南米にも広がり高いのが現状です。

チョコレートへの加工と流通の仕組み

カカオ豆は現地で一次加工(発酵・乾燥)された後、世界各国に輸出されます。日本が輸入するカカオ豆はガーナ産が約78.1%(日本チョコレート・ココア協会2022年統計)で圧倒的。一方で、ヨーロッパやアメリカではコートジボワールや南米産のカカオも使用されます。
カカオ豆は国際市場で取引され、ロンドン・ニューヨークなどの先物市場で価格が決まります。ここ数年、市場参加者の減少や為替・投機資金の流入により、価格変動が極端になりやすい状態が続いています。

カカオの価値と社会的影響

カカオは単なる作物ではなく、産地国の国民生活や子どもの就学率、環境保護など多様な価値を持っています。世界銀行の2021年レポートによると、ガーナやコートジボワールの大規模農家の家計の70%以上がカカオ豆の売却益で成り立っているとのこと。カカオ価格の高騰・暴落は、産地の社会経済や雇用にも直結しています。
近年は「サステナブル(持続可能)」「フェアトレード」などの観点からも、児童労働や生態系への配慮がますます重視され、グローバル企業も原料調達先や農園の管理体制を見直す動きが加速しています(FAO:「The State of Agricultural Commodity Markets 2022」)。

現状の問題点や課題

(1)カカオ産地の生産不振と異常気象

2022〜2024年にかけて、主産地である西アフリカ一帯は未曽有の干ばつと高温、また病害虫(カカオさび病、カカオポッド病)による甚大な被害を受けました。コートジボワール南西部の降水量は例年比で36.2%も減少し、生産現場では「カカオ豆が小さく品質が落ちた」(現地報告)という声が急増。ICCOによれば、2023/24年の世界カカオ生産量は前年比2.7%減の481万トンへ落ち込む予測です(https://www.icco.org/)。

(2)国際価格の乱高下と流動性の低下

ロンドンやニューヨークの先物市場では、2024年初めには1トンあたり1万2000ドル超という“史上最高値”をつけ、12月時点では1トン9200ドル台まで調整が入っています(日経新聞2024年4月27日)。市場の価格乱高下は投資マネー離れ、市場流動性の低下につながり、チョコレートメーカーの資材調達リスクが飛躍的に高まりました。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、2025年以降のカカオマネー建玉は例年以上の減少を示しています。

(3)中間業者・商社の調達困難と価格転嫁

伊藤忠商事のような大手商社は、ガーナ産以外にトーゴやリビアなど周辺国からの調達を検討開始。しかし現地では農薬規制や品質維持の課題も山積し「安定供給」の見通しは不透明。結果的に、小売り現場では自身が仕入れた単価を消費者価格に転嫁せざるを得ず、冒頭で述べたような“板チョコの7%減・単価31%上昇”という現象が日本中で起きているのです(全国POS市場調査2024年4月)。

(4)消費者行動およびメーカーへの影響

「バリーカレボー」「モンデリーズ」「ベーハシー」など多国籍大手メーカーの売上減少は、そのまま原料高の直撃。「チョコレートだけは値上げしても売れ行きが落ちない」という従来の通説が崩れ、消費者も“節約志向”や“買い控え”へと動きつつあります。

 解決策・改善案

(1)産地多様化・調達先の分散

企業や政府が今取り組むべき最大の策は、カカオ調達先の多様化です。伊藤忠商事のように、ガーナ一本足から周辺国へ調達網を拡大する動きが急速に進んでいます。山田恵みカカオ・ごま課長は「現地の品質や風味もガーナに近い」とコメント。農薬規制や生産者教育の強化で品質・安全性の両立も検討中です。

(2)生産現場の技術・インフラ改良

コートジボワールやガーナの農園では、乾燥防止・灌漑技術(ドリップ灌漑など)の導入、「耐病・高収量品種」への切替、生産指導の強化(小農の集約化、共同精算施設の建設)が急務とされています。
世界銀行の2023年プロジェクトレポートには「灌漑技術導入でカカオ生産量が52.3%増加した」事例が示され、技術投資への国際支援も拡大しています。

(3)サステナブル調達・フェアトレードの拡大

価格高騰・産地貧困問題への長期的対応にはサステナブル調達の普及が不可欠です。国連WCF(World Cocoa Foundation)は「フェアトレードの認証農園割合が15.8%に達した」(2023年発表)。日本でも大手企業が“サステナブル認証”の原料調達を50%超に拡大予定で、倫理的消費や社会的責任を問う消費者の声が強まる中、企業の対応も進んでいます。

(4)消費文化の変革、製造現場での代替策

消費者サイドでは国産材料(米粉や豆乳等)採用によるオリジナル「和チョコ」商品の新企画、小売現場でのPB(プライベートブランド)展開拡大が注目されています。メーカーでは植物性原料や低糖チョコなど、供給安定と健康志向を兼ねる新商品開発にも注力。
日経新聞2024年5月では「企業横断の持続可能なサプライチェーン確立に向け、新規開発予算を25.5%増やした」とされ、多様化の流れが今後も加速していくでしょう。

 信頼情報・識者コメント・公式データ

(公式データ・現場の声)

・国際カカオ機関(ICCO):2023/24生産量は前年比2.7%減、約481万トン見込み
・日本チョコレート・ココア協会2022年統計:ガーナ産カカオ輸入78.1%
・CFTC(米商品先物取引委員会):カカオ建玉、2025年以降大幅減少傾向
・JICA(国際協力機構):「ガーナカカオ農園支援プロジェクト」により、農園指導で収量42.8%改善事例報告
・日経新聞2024年4月27日:板チョコ価格前年比31%高/売上7%減

(専門家コメント・識者の見解)

・今村有起(カカオ専門調査「コンティフィラス」社長):「6月以降のカカオ加工量は大幅減となる可能性が高い」
・国連WCF(World Cocoa Foundation):フェアトレード認証取得により「農家所得が31.2%改善」した
・国際農業調査レポート2023:「環境対応型農法への切り替えで、農薬使用量17.5%減の効果が得られた」
・識者談話:名古屋大学大学院農学研究科「グローバル市場の乱高下が続くが、生産地の現場改良と消費者の知識向上で、危機は乗り越えられる可能性大」

今後の展望・社会への影響

今後、カカオ高騰と供給不安は一過性の問題として終わるとは限りません。
主要生産国の気候変動リスク、投機マネーの出入り、市場流動性の低下など、さまざまな新たな不安材料があります。国際間協力に加え、技術革新・商社の調達多様化、サステナビリティ志向消費の拡大が、チョコレート文化の維持に不可欠です。

消費者も「フェアトレード」マークや産地証明を意識して選ぶ習慣が問われ、商品の背景や地球環境に対する視点も購買の基準になっていくでしょう。今後もチョコレートの価格や店頭在庫に変動は続く見込みですが、企業・消費者双方の知恵と行動が市場を支えていくことになります。

実践アドバイス

・スーパーやコンビニで買うチョコは、フェアトレード認証や産地情報を確認してみる
・価格が上がった時も無理に“まとめ買い”せず、必要量だけを購入する
・PB(プライベートブランド)商品や国産素材のチョコも試してみる
・企業やブランドの「サステナブル調達」への取り組みを応援/情報発信する
・家庭での保存・賞味期限管理を徹底し、食材ロスを減らす工夫をしてみよう

まとめ

チョコレートは、私たちの暮らしに甘さと彩りを添える日常のパートナー。しかしその裏側では、カカオ豆という一つの原料をめぐり、今世界で深刻な危機が進行しています。西アフリカの生産地での異常気象や生産不振、国際市場での価格高騰、流動性低下、流通網の混乱、そして消費国での価格急騰……どれ一つを取っても無関係なものはありません。今、私たちが一枚の板チョコを手にするまでの長い道のりには、数千キロ、数万人の労働、経済や社会の変動が積み重なっています。

一人一人の消費行動が産地や流通を変える力となります。原料表示やフェアトレード認証を意識する。企業の調達先の多様化や、農家支援付きの商品を選ぶ。現場の努力や知恵にもぜひ目を向けてみてください。

 

 参考文献・統計・出典一覧

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