道浦 母都子 (みちうら もとこ)
1947年~ 歌人。和歌山県生まれ。
朝日歌壇への投稿をきっかけに高校時代より作歌を開始。早稲田大学文学部卒業。近藤芳美に師事する。歌誌『未来』に所属。学園紛争と愛のはざまに揺れる女子学生の葛藤を描いた第一歌集『無援の抒情』で70年安保世代の支持を得る。歌集『水憂』『ゆうすげ』 『風の婚』、散文集『吐魯番の絹』など。
道浦 母都子 歌集
1980年 『無援の抒情』(雁書館)
1986年 『水憂』(雁書館)
1987年 『ゆうすげ』(雁書館)
1991年 『風の婚』(河出書房新社)
1997年 『夕駅』(河出書房新社)
1998年 『現代歌人文庫 道浦母都子歌集』(砂子屋書房)
1999年 『青みぞれ』(短歌研究社)
2008年 『花やすらい』(角川学芸出版)
2013年 『はやぶさ』(砂子屋書房)
道浦 母都子 短歌
明日あると信じて来たる屋上に旗となるまで立ちつくすべし 『無援の抒情』
今だれしも俯くひとりひとりなれわれらがわれに変りゆく秋
打たれたるわれより深く傷つきて父がどこかに出かけて行きぬ
ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく
「今日生きねば明日生きられぬ」という言葉想いて激しきジグザグにいる
催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり
調べより疲れ重たく戻る真夜怒りのごとく生理はじまる
スクラムを解けば見知らぬ他人にて街に散りゆく反戦の声
抱かれれば女と生まれしこと憎む日々重ねきて別れを決めぬ
燃ゆる夜は二度と来ぬゆえ幻の戦旗ひそかにたたみゆくべし
この国を捨てむとしたる過去もうつしみ深く紛れゆきたり 『水憂』
全存在として抱かれいたるあかときのわれを天上の花と思わむ 『ゆうすげ』
洗い髪濡れて光れるそのままをあなたに倒れてゆくまでの愛 『風の婚』
人のよろこびわがよろこびとするこころ郁子の花咲く頃に戻り来
水の婚 草婚 木婚 風の婚 婚とは女を昏くするもの
行きずりの虹のごとしも十年を共に暮らせしひとのことすら
洗い上げし青梅干さむベランダに地上十五メートルの街風さやぐ 『夕駅』
マルクスはかつて万能 おおどかにユーラシヤ吹く風に運ばれ
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