【山の歌】古典から現代短歌。『21選』

山に沈む夕日

山に沈む夕日

山の歌の遍歴

日本は山国といわれるように、国土の三分の二は山地です。 山は万葉の昔から歌には多く詠まれてきました。その山には、高山と低山とがあり、人との生活からみれば奥山と里山とに分けられます。

また、神の宿る神聖な場所であり、俗人の立ち入りを絶する畏敬の念を持ったものが「山」の通念でありました。

歌には、山道を歩いて読んだの歌から、時代が下るにつれて同様に形式化へ陥って行く。山の歌の表現が大きく変わるのは明治の和歌革新以後で、写生ないしは写実の方法が短歌に導入されてからのことです。

現代では、写実に拠らない歌もあります。想像力によって山を思う歌、山を特定せず抽象化して詠む歌などです。そして自然に存在しない山の表現もあります。

 

山の短歌(和歌)

富士の嶺を高み恐み天雲をい行きはばかりたなびくものを 高橋虫麻呂

立山に降り置ける雪の常夏に消ずてわたるは神ながらとそ 大伴家持

秋山の黄葉をしげみ惑ひぬる妹を求めむ山道知らずも 柿本人麻呂

笹の葉はみ山もさやにさやげども我は妹思ふ別れ来ぬれば 柿本人麻呂

風になびく富士の煙の空にきえてゆくへも知らぬわが思哉  西行

槍が岳そのいただきの岩にすがり天の真中に立ちたり我は 窪田空穗

行けと行けど白檜しげれる深き山霧濃くなりて夕ぐるるらし 藤沢古実

鎖場につづく鎖場に鎖つかみつかみて岩を踏まへつつ攀づ 片山貞美

自然がずんずん体のなかを通過する―山、山、山 前田夕暮

雲の上に濃き藍を乗せ霜月の立山連峰ぐいとひろらに 佐佐木幸網

いただきは雪かもみだる真日くれてはざまの村に人はねむり 斎藤茂吉

黄金の落葉松はいと高らかに笑ひゐて蔵王の深き沈黙 馬場あき子

ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな 石川啄木

国に事ありものみな動く秋にして山は静けくもみぢ葉を積む 岡本かの子

立山が後立山に影うつす夕日の時の大きしづかさ 川田順

雪にまみれ真白となれる道標幽かなる世を指し示すらし 来嶋靖生

喪のいろのたぐひとおもふもんぺ穿き山の華麗に対はむとする 葛原妙子

とげとげしき山の姿に在り馴れしこの国人よなめらかならず 斎藤史

地中銀河と言はば言ふべし富士山の胎内ふかく行く寒き水 高野公彦

星あらぬ空を戴き山上に眠れり触れしその夜のごと 水原紫苑

地図になきスラムの名前 煙なす「スモーキーマウンテン」 塵芥の山 俵万智 

 

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