髪の歌の始まり
黒髪を詠んだ最初の歌が登場するのは、日本最古の歌集である『万葉集』の第2巻に聞かされた「石之日売(いわのひめ)」の歌です。仁徳天皇の皇后、磐姫皇后(石之日売 いわのひめ)の作品と伝えられていますが、実際には伝承歌として親しまれています。そして、霜が降りるように時間が経っても、相手を待ち続ける様子が描かれている相聞歌(恋愛に関する歌)です。
黒髪は、古代から女性の美しさを表すものとして重要な象徴とされてきました。 黒く長い髪は、清らかさや若さ、そして恋する女性の情熱を象徴するものとして、多くの和歌や短歌に詠まれました。これにより、黒髪が特に恋愛や男女の情愛を象徴するとして使われていたことが表現できます。
『万葉集』における黒髪は、現代の私たちにとっても、日本の伝統的な美意識の一部として残っています。 黒髪が恋の歌に登場するのも、その象徴的な意味合いからであり、女性が恋に身を焦がす様子や、恋のために待っています継続的な心情が暗いという形で表現されていたのです。
また、黒髪が恋愛における女性性を示す比喩として述べられた背景には、当時使われていない人々の美意識が大きく影響していると考えられます。美しさ、純粋さ、そして情熱といったものを表す重要な要素でした。万葉集の時代、女性にとっては自分自身の心や思いを相手に伝えるための一つの手段でもありました。
髪の短歌
ありつつも君をば待たむうちなびくわが黒髪に霜の奥までに/石之日売
黒髪のみだれも知らずうちふせばまづかきやりし人ぞこひしき/和泉式部
長からん心も知らず黒髪の乱れてけさはものをこそ思へ/待賢門院堀河
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな/与謝野晶子
髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ/与謝野晶子
髪ながき少女とうまれしろ百合に額は伏せつつ君をこそ思へ/山川登美子
うしろより母を緊めつつあまゆる汝は執拗にしてわが髪乱るる/森岡貞香
母の齢はるかに越えて結う髪や流離に向かう朝のごときか/馬場あき子
君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る/河野裕子
すべもなく髪をさすればさらさらと響きて耳は冴えにけるかも/長塚節
抱くとき髪に湿りののこりいて美しかりしき野の雨を言う/岡井隆
涙拭ひて逆襲し来る敵兵は髪長き広西学生軍なりき/渡辺直己
髪きつく毮るばかりにさみしくてわれの青銅時代はながし/春日井建
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