斎藤 史(さいとう ふみ)
1909~2002年 東京都四谷生まれ。歌人。父は軍人で歌人の斎藤瀏。
歌集
歌集『魚歌』1940年
歌集『歴年』1940年
歌集『朱天』1944年
歌集『うたのゆくへ』1953年
歌集『密閉部落』1959年
歌集『風に燃す』1967年
歌集『ひたくれなゐ』1976年
歌集『遠景』1977年
『風のやから 斎藤史歌集』1980年
歌集『渉りかゆかむ』1985年
歌集『秋天瑠璃』1993年
歌集『風翩翻』2000年
カメラに向き物食ひさして笑ひたりややはにかめる若き兵の顔『朱天』
草に土に常に恐れてやすらはぬ蜥蜴は美しき尾をひきにけり
訓練空襲を告ぐる我声のしみゆきてさらにきびしき闇となりたり
遠空にいなびかりありいよいよに戦ひて居らぬ国遂に無し
山河はただに霞みてはるけかり手をあぐれども歌ながせども
散り敷けるりんごの花のうす汚れいたいたしかる世とおもひつつ『やまぐに』
とげとげしき山の姿に在り馴れしこの国人よなめらかならず
りんごの花のゆふべは霞むほの明りたどりて何に逢はむとはする
凍て雪をよろへる岩の意地つよき坐りざまをば見て物言はず『うたのゆくへ』
生きゆくはみな修羅ながら 鬣の金色にかがやくものの羨しさ『風に燃す』
かそかなる発光ながら合図あり かの野の洞の光苔たち
反りかへる木蓮の花のむらさき われよりも夜に沈みゆくことふかし
たましひよりも濃き紫をしたたらせアイリスの朝のつゆけき詠唱
なかなかに隠者にさへもなれざれば雲丹・舌・臓物の類至って好む
ぬばたまの黒羽蜻蛉は水の上母に見えねば告ぐることなし
夜を光る月夜茸にしきり逢ひたくてむささびどもは出でてゆくらむ
おびただしく寄せられてゐて空蝉のぬけがらながら我を圧せり 『ひたくれなゐ』
コメント