岡野弘彦(おかのひろひこ)
1924年(大正13年)7月7日~ 三重県出身。歌人。
あたらしく得し恋をわれに聞かせつつ海よりも暗き瞳してゐる 『冬の家族』
辛くして我が生き得しは彼等より狡猾なりし故にあらじか
きつね妻子をおきて去る物語歳かはる夜に聞けば身にしむ
草の上に子は清くして遊ぶゆゑ地蔵和讃をわれは思へり
椎の木のそよぎをぐらき庭に立ちてくづれくる心を叱りぬるなり
目馴れこし夜空にそそる杉の秀のするどき揺れを眼より放たず
わが胸に苦しき泉湧く音をひそかに測りゐる白き耳
なきがらの帰らぬ死にを歎かねど悲しき親の身は痩せに痩す
人はみな悲しみの器。頭を垂りて心ただよふ夜の電車に
またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく
草の葉のそよぎしづまるさ夜ふけて去りがたくゐる人を去らせぬ
『海のまほろば』
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