酒の歌の歴史
3世紀の『魏志』倭人伝に早くも〈人性酒を嗜む〉とあるから、 文献的に酒の歴史は古いことが分かる。当然、早い時代から酒にかかわる詩歌もある。ただ、酒の詩歌は多くない。とくに「酒」という語が具体的に出てくる歌は少ない。
古く、酒は神に供えるものであった。人は、神に供えた酒を宴席でふるまわれたのである。古代の酒の歌は、ほとんど宴席歌、祭事歌としてうたわれている。生活のなかの酒で『万葉集』に登場する例としては、大伴旅人「讃酒歌」、山上憶息 「貧窮問答歌」が有名である。
飲酒が、庶民の日常のものとなり、短歌の世界でも酒がうたわれるようになるのは、江戸後期からである。
酒の歌
あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿こかも以る 大伴旅人
とくとくと垂りくる酒のなりひさごうれしき音をさするものかな 橘曙覽
わが酒のかぎり見えたるふらすこに人の命も悲しかりけり 大隈言道
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ 若山牧水
かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ 若山牧水
酒をあげて地に問ふ誰か悲歌の友ぞ二十万年この酒冷えぬ 与謝野鉄幹
あらむ世を商賈の類に生れきて色うつくしき酒はひさがむ 明石海人
われにとなりわれあり酒をたうべ居れりくるしき青の壁紙に添ひ 尾山篤二郎
寂しければ或る日は酔ひて道の辺の石の地蔵に酒たてまつる 吉井勇
電車にて酒店加六に行きしかどそれより後は泥のごとしも 佐藤佐太郎
昨夜ふかく酒に乱れて帰りこしわれに喚きし妻は何者 宮柊二一
にこやかに酒煮ることが女らしきつとめかわれにさびしきタぐれ 若山喜志子
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