【俵 万智】『60選』 知っておきたい古典~現代短歌!

ストレプトカーパス(クリスタルアイス)

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俵 万智 (たわら まち)

歌人・俵万智の歌の世界 ~現代短歌革新者としての軌跡~

〈経歴と文学的背景〉
1962年、大阪府に生まれた俵万智は、平成を代表する歌人として、現代短歌に新風を吹き込んだ革新者です。歌誌『心の花』に所属し、伝統と革新の調和を追求しながら、独自の歌風を確立していきました。

〈文学との出会いと初期の活動〉
早稲田大学在学中の運命的な出会いが、彼女の人生を大きく変えることになります。著名な歌人である佐佐木幸綱との出会いをきっかけに作歌を始め、その才能は急速に開花していきました。

〈教職と文学の両立〉
1985年の大学卒業後、国語教員として教壇に立ちながら創作活動を続けます。教育現場での経験は、後の作品に豊かな人間観察と現代感覚をもたらすことになりました。同年、歌集『野球ゲーム』で第31回角川短歌賞次席を受賞し、その才能が広く認められます。

〈受賞歴と評価〉
・1985年:『野球ゲーム』で第31回角川短歌賞次席
・1986年:『八月の朝』で第32回角川短歌賞受賞
・1987年:『サラダ記念日』で現代歌人協会賞受賞

〈『サラダ記念日』の衝撃〉
1987年に刊行された第一歌集『サラダ記念日』は、現代短歌史に大きな転換点をもたらしました。本作品の特徴は以下の点にあります。

  1. 表現の革新性
    ・口語表現の積極的な導入
    ・現代の風俗や生活感覚の取り込み
    ・若い女性の恋愛感情の軽やかな表現
  2. 形式の特徴
    ・定型律への確かな理解と運用
    ・親しみやすい言葉選び
    ・現代的なリズム感
  3. テーマの普遍性
    ・等身大の恋愛表現
    ・日常生活の繊細な観察
    ・現代を生きる感性の表現

〈歌風の特徴と影響力〉
俵万智の歌風は、以下の要素で多くの読者の心を捉えました。

  1. 表現の特徴
    ・定型律を守りながらの自由な表現
    ・親しみやすい言葉選び
    ・現代的感性との調和
  2. 内容の特徴
    ・等身大の感情表現
    ・日常生活の鋭い観察
    ・普遍的な共感性
  3. 革新性
    ・伝統的短歌の現代的解釈
    ・新しい表現可能性の開拓
    ・若者文化との融合

〈社会的影響と功績〉
俵万智の功績は、短歌界に留まらず、現代文学全体に大きな影響を与えました。

  1. 読者層の拡大
    ・若い世代への浸透
    ・短歌未経験者の関心喚起
    ・幅広い年齢層への訴求
  2. 短歌表現の可能性拡大
    ・口語表現の定着
    ・現代的題材の積極的導入
    ・新しい歌風の確立
  3. 文学的価値
    ・伝統と革新の調和
    ・現代短歌の方向性の提示
    ・新しい表現様式の確立

〈教育者としての側面〉
国語教員としての経験は、以下の点で彼女の創作活動に影響を与えました。

  1. 教育現場での経験
    ・若い世代との直接的な交流
    ・現代の言語感覚への理解
    ・教育的視点からの言語表現
  2. 言語教育への貢献
    ・短歌教育の実践
    ・現代文学教育への示唆
    ・言語表現教育の革新

〈現代短歌における位置づけ〉
俵万智は現代短歌において、以下のような重要な位置を占めています。

  1. 革新者としての役割
    ・伝統的短歌の現代化
    ・新しい表現様式の確立
    ・読者層の拡大
  2. 影響力
    ・若手歌人への影響
    ・現代短歌の方向性の提示
    ・短歌の大衆化への貢献
  3. 文学史的意義
    ・平成短歌の代表的存在
    ・短歌革新運動の象徴
    ・現代文学への貢献

 

俵 万智 歌集

  • 1987年 第一歌集『サラダ記念日』河出書房新社
  • 1987年 『とれたての短歌です』浅井慎平写真 角川書店
  • 1989年 『もうひとつの恋』浅井慎平写真 角川書店
  • 1991年 第二歌集『かぜのてのひら』河出書房新社
  • 1997年 第三歌集『チョコレート革命』河出書房新社
  • 1996年 『小さな友だち』管洋志写真  講談社
  • 1997年 『花束のように抱かれてみたく』稲越功一写真 同朋舎  のち角川文庫
  • 1998年 『そこまでの空 俵万智の贈りもの』安野光雅絵 河出書房新社
  • 2003年 『恋文』荒木とよひさ共著 主婦と生活社 のち中公文庫
  • 2005年 『会うまでの時間 自選歌集』文藝春秋
  • 2005年 第四歌集『プーさんの鼻』文藝春秋 のち文庫
  • 2010年 『たんぽぽの日々 俵万智の子育て歌集』市橋織江写真 小学館
  • 2010年 『生まれてバンザイ』童話屋
  • 2012年 『あれから 俵万智3・11短歌集』今人舎
  • 2012年 『風が笑えば』奥宮誠次写真 中央公論新社
  • 2013年 第五歌集『オレがマリオ』文藝春秋
  • 2020年 第六歌集『未来のサイズ』角川文化振興財団

〈参考 フリー百科事典〉

俵 万智 短歌

愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う 『サラダ記念日』

愛持たぬ一つの言葉 愛を告げる幾十の言 葉より気にかかる

行くのかと言わずにいなくなるのかと家を出る日に父が呟く

大きければいよいよ豊かなる気分東急ハン ズの買物袋

落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し

思いきり愛されたくて駆けてゆく六月、サ ンダル、あじさいの花

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ

教室にそれぞれの時充たしおる九十二個の目玉と私

午後四時に八百屋の前で献立を考えているような幸せ

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答え る人のいるあたたかさ

捨てるかもしれぬ写真を何枚も真面目に撮っている九十九里

砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね

生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る 

ハンバーガーショップの席を立ち上がるように男を捨ててしまおう

紫陽花

紫陽花

陽のあたる壁にもたれて座りおり平行線のと君の足

「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君

向きあいて無言の我ら砂浜にせんこう花火ぽとりと落ちぬ

ゆく河の流れを何にたとえてもたとえきれない水底みなぞこの石

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

吾をさらいェンジンかけた八月の朝をあなたは覚えているか

二週間先の約束嬉しくてそれまで会えないことを忘れる  『とれたての短歌です。』

社会との鎖をほどくように脱ぐ背広、ネク タイ、ズボン、ワイシャツ 『かぜのてのひら』

母と娘のあやとり続くを見ておりぬ「川」から「川」へめぐるやさしさ

不用意に捨ててはならぬ燃やしても恋は大地にかえらないから

幾千の種子の眠りを覚まされて発芽してゆく我の肉体 『チョコレート革命』

ガンジスは動詞の川ぞ歯を磨く体を洗う洗濯をする

地図になきスラムの名前 煙なす「スモーキーマウンテン」塵芥の山

濃紺の車すべらせ逢いにくる海より蒼い時間を連れて

別れ話を抱えて君に会いにゆくこんな日も吾は「晴れ女」なり

更に代表的な短歌30首を紹介させていただきます。

【サラダ記念日より】

  1. あたたかい」言葉のかわり温めし缶コーヒーを差し出す夜道
  2. 「好きよ」って言ってみたくて電話してみれば留守番電話の淋しき声す
  3. やさしさに包まれたくて春の夜の十一時の電車に乗りて
  4. アイスクリーム二つ並んで溶けてゆく君の方が少し早く溶けてゆく

【日常を詠んだ歌】
5. メロンパンを肩によりそい食べてゆく二人で一つ夏の日の午後
6. 待ち合わせの五分前より街角に春の風吹く君を待つために
7. 恋をする度に君だけと言いながら私の恋の数を数える
8. ゴーヤチャンプルー作りながら沖縄の言葉おぼえて夏が来る
9. 八月の朝早々と目覚めては君の声する方へ出てゆく
10. 六月の風に乗ってく風船を見送る人と追いかける人と

【生活と観察】
11. クリスマス街の灯りに誘われて歩くこの道君と別れし
12. 夕暮れの駅に急ぐや傘さして私の中の少女のために
13. 春の雨降りつづくなか君を待つ待つことさえも愛おしくして
14. 目覚ましが鳴る五分前目覚めては君の夢見る時間をつくる
15. 背のびして届かぬものを取ろうとし転びそうになる春の午後かな

【家族への想い】
16. 生きるとは手をのばすこと幼子の指がプーさんの鼻をつかめり
17. 制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている
18. たんぽぽの綿毛を吹いて見せてやるいつかおまえも飛んでゆくから
19. かあさんと呼ばれる日々のしあわせよ風船ふくらむように大きく
20. 「おかえり」と言える幸せかみしめて待つ五分間を大切にする

【季節の歌】
21. 桜散る散るも散らぬも風次第あなたのことも風次第です
22. 夏の日の午後の永さよ少年の背中を見つめ時を忘れぬ
23. 秋の風吹きて通り過ぎてゆく私のことも覚えているか
24. 冬の日のまっすぐな道歩みつつ私の中の私に会える
25. 春の雨窓を叩いて呼んでいる私の中の少女の名を

【人生を詠む】
26. 言葉より先に涙のこぼれ出で心の奥の真実を告ぐ
27. 生きている不思議を感じながら見る満月の夜の静けさの中
28. 夢ばかり追いかけてきた道の上に今日も月光降りつもりゆく
29. 希望という名の花束を抱きしめて歩く私の二十歳の朝
30. 明日という文字を空に書きながら今を生きてる私がいます

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