シクラメン
黒木三千代(くろきみちよ)
1942年~ 大阪府生まれ 歌人。
大阪樟蔭女子大学英米文学科卒業。「コスモス」短歌会、のちに「未来」短歌会に入会。倫理的心情をベースにして、身の回りの事象や社会を比喩表現を駆使して、世界の様々な一面を照らし出す歌人と して知られる。
歌集に『貴妃の脂』『クウェート』がある。
或いは危ふからずや鯉が上下に擦れ違ふときの感覚なども 『貴妃の脂』
ししむらのま闇羞しきくれなゐの卵管なども春はけぶらむ
死にたらば同じ蓮に住まうと言ふ改宗をして死なうと思ふ
さうたうに軌道はづるる生き方もしてみよみよと三月の猫
椅子ふたつむき出しにして政変は〈白い結婚〉さむい夏の 『クウェート』
咬むための耳としてあるやはらかきクウェートにしてひしと咬みにき
関西は葉葱を食みてやはらかく細きことのはに否を言ふかな
白ナイル、青ナイル会ふ合歓の声ゆたかなる地と思はむ
侵攻はレイプに似つつ八月の涸谷越えてきし砂にまみるる
父とをとこの狭間に落ちし夏蝶の屍のふたつみつつあるとも
曇天のごとあたたかなかたまりが近々とゐて、息子なり
ながあめの底小さなる燠なして鶏頭はみな襞たたむ花
西側の二枚の舌がしんしんと嬲りしパレスチナにあらぬか
FAXで送られてくる字の細さ 疲れたひとは物陰にゐる
牡丹に敷藁ぬくく照りゐたるこもりく初瀬 時の壺の中
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