【中学生】以上に知ってもらいたい短歌。『河野愛子』

河野 愛子(こうの あいこ)

1922~1989年 栃木県出身。歌人。

広島女学院高等女学校卒。1947年「アララギ」に入会。土屋文明に師事。1951年『未来』創刊に参加。若くして闘病を余儀なくされ、病む者の苦痛や苦悩を歌に込めている。

 生きてゐる吾のすべての罪思ふ泣きつつ細き声を捧ぐる 『木の間の道』

かそかなる黄色を保つ朝の月もちの梢を離れてゆきぬ

肩の肉共に薄き吾らにて遊びの中に脈とりあひぬ

ロシア語のページもありし吾が夫の日記ひそかに閉ぢておきたり

光芒の如き薊を手に持てり海に続ける曇天の道 『草の翳りに』

触角の如く怖れにみちてゐる今日の心と書きしるすのみ

かくのごと街の明るきに歩みあふ女らは〈逃亡者〉たることもなく 『魚文光』

夏の靴しまひてをればげに遠く光にうねる 阿武隈川は『鳥眉』

夜の灯はとめどなく雨に濡れてゐるあるベくもなき聖家族はも

暁闇の舗道につぎつぎと下る鴉弾みをもちて走りあふなれ『黒羅』

みちのくに深く入るにも月山の朧朧と雪の降る道

やがて吾は二十となるか二十とはいたく娘らしきアクセントかな 『ほのかなる孤独』

還らぬは胸ふかくしておもかげの角度を守 る夜のありにけり『夜はながれる』

まよなかにぽつと尾をひく船笛をきくとき人界の音とおもはむ『光ある中に』

マリアその触りがたきをばいだきたるヨセフの息をおもふかなしさ (歌集未収録)

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