【ホームレス申請】の流れと支援策を徹底解説

ホームレス支援

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『ホームレス申請』に踏み出すとき—家をなくしたその先に

「明日は我が身かもしれない」。昨今の経済情勢や不安定な雇用環境の中、「住まいを失うリスク」は決して他人事ではありません。ニュースでは定期的に「ホームレス」や「ネットカフェ難民」に関する記事が取り上げられていますが、その裏には、暮らしが突然立ち行かなくなった方々の苦闘や不安が隠されています。

今回取り扱うのは、「ホームレス申請」。この言葉は一般的には耳慣れないかもしれませんが、実際には生活が苦しくなったとき、住まいを失った、もしくは失うおそれがある際に、各自治体の窓口で「助けてほしい」と訴え、行政の支援につなげてもらう重要な手続きです。筆者の家族にも、ある日突然、娘が役所に足を運び「ホームレス申請」を行ったという実例がありました。そこから分かったこと、「申請した後の対応はどうなるのか?」という素朴な疑問、そして支援制度の実態と課題について解説します。

「ホームレス申請」の基本的な意味や背景

●ホームレス申請とは?

「ホームレス申請」とは、路上生活やネットカフェ暮らし、または住居喪失の危機に直面した人が、行政(多くは自治体の福祉窓口)へ「自分の住居がない・失う恐れがある」「日常生活が困難な状況に置かれている」と訴え、生活保護や一時保護、住まい探しのサポートなどにつなげるための一連の手続きを指します。

ホームレスというと「公園や高架下で暮らす」イメージが先行しがちですが、近年は、住居がなくネットカフェや24時間営業の施設、知人宅を転々とする「隠れホームレス」や「ネットカフェ難民」と呼ばれる層の存在が社会問題化しています(厚生労働省 令和5年ホームレス実態調査によると、こうした潜在層は3065人という公的数字の背後にさらに多く存在すると考えられています)。

●申請までのステップ

実際にホームレス申請を考える場合、まずはお住まいの市区町村の福祉事務所や生活困窮者自立相談支援機関(社会福祉協議会、NPO等)で相談します。窓口では本人の状況確認が行われ、場合によっては一時保護(一時宿泊や食事の手配等)、生活保護申請の補助、就労支援、住居探しなど、様々な支援メニューが用意されています。

しかし、「どんな支援が受けられるのか?」「申請したらすぐ保護が受けられるのか?」「プライバシーは守られるのか?」など不安な点も多いのが現状です。

●そもそもなぜ「申請」が必要なのか

生活困窮の現場では「自己申告」が前提ですが、ホームレス状態にあると住民票がなかったり、身分証を紛失しているケースも珍しくありません。本来は「その日安全に寝泊まりできる場所がない状態」自体が支援に直結すべきですが、「自分から申請しないと行政が手を差し伸べられない」構造になっています。

取材によれば、近年は若年層・ひとり親・高齢者・障害者など、多様な背景を持つ人たちが住まいを失い、行政窓口に救いを求めています(東京大学社会福祉学部「現代の住居困窮―ホームレス支援の現場から」2023年3月 報告書より)。

●背景にある社会の変化

日本のホームレス人口は長期的には減少傾向にあります。
厚生労働省の全国調査によれば、平成30年(2018年)4977人→令和5年(2023年)3065人と、5年間で1912人減少しました(令和5年厚労省「ホームレスの実態に関する全国調査」より)。
しかし、「見えないホームレス」「困窮世帯の潜在化」など、新たな課題も生まれています。

また、新型コロナウイルスの拡大で仕事や家を失った人が激増し、都市部の支援窓口にはかつてない相談件数が寄せられました(2020~22年は東京都だけでも生活困窮相談が前年比+40.7%、都生活福祉協議会調べ)

個人的な感想:娘がいきなり役所に行って申請したが…

数年前、筆者の娘が「いきなり役所に行ってホームレス申請をした」と連絡が来たとき、正直混乱しました。家族として支えきれない苦しさも抱えつつ、本人がどんな対応を受けるのか、どういう手続きをするのかまったく分かりませんでした。

窓口ではまず「現在の居場所」「所持金」「困っていること」を細かく聞かれ、その場で一時的な宿泊場所と食事券が手渡されたそうです。翌日には専門のケースワーカーと面談し、本人の希望や困窮の経緯(職場でのパワハラや家賃滞納など)を話し合ったとか。一方で、娘は「プライバシーが気になる」「周囲の視線が気まずい」「どこまで相談していいか分からない」と不安だったようです。

その後、生活保護の仮申請や住居確保支援などの流れに移ったものの、「一人で申請するのは勇気がいる」「予想以上に丁寧な支援も受けられた」など複雑な感想があったと聞きます。

現状の問題点や課題

●見えにくい困窮の実態

「ホームレス」と聞くと公園や駅で寝泊まりする人を想像しがちですが、近年は「ネットカフェ難民」「住み込みバイト暮らし」「車中泊」など、名簿にも統計にも出てこない暮らしをする人が増えています。令和5年度の厚生労働省調査では、野宿者・公的機関利用者以外はほとんどカウントされておらず、実態把握が難しいのが現状です(noteメディア「ホームレス支援の“今”を知る」 https://note.com/actionforall/n/n1ba4f3747226 参照)。

また、家族・知人から「ケアが届かない」孤立型の困窮者も多く、生活保護申請すらためらうケースが少なくありません。

●制度利用のハードル

行政窓口での相談は「最終手段」のようなイメージが根強く、「福祉に頼るのは恥」と感じたり、「相談したら自分でなんとかしろと言われた」「申請しても断られる」といったネガティブ経験が壁になっています。

有資格のケースワーカーの不足や、相談窓口側の対応力、プライバシーの確保なども課題。地方では「施設までの移動手段がない」「家族に知られるのが不安」「言葉が分からない(外国人)」など、深刻な問題も指摘されています。

●高齢化・多様化と支援の限界

2023年現在、ホームレスのうち65歳以上が54.4%(厚生労働省令和5年調査)と過半を占めます。「健康不安」「障害」等を抱えた高齢困窮者も多く、一時宿泊や生活保護だけでは十分な支援につながらない現実があります。生活困窮者には、女性・若者・単身親・精神障害や依存症が背景にある場合も多く、画一的な制度だけでは対応しきれないケースも増えています。

●民間・NPO支援の役割と限界

福岡のNPO法人「抱樸(ほうぼく)」など、住まい支援や食事援助、就労サポートなど民間団体の存在は大きいですが、資金・人手面で限界があり、多くの人を救いきれていません。コロナ禍以降、相談件数が増えたことで支援現場の疲弊も顕著です。

●「ホームレス申請」自体への誤解と偏見

「“申請する=ホームレス”になってしまう不名誉」と感じる心理的抵抗や、世間の偏見も根強い問題です。また、申請後の生活設計や社会復帰までサポートする体制が不十分なままの自治体も多く、「申請した後にどうなるか不安」という声が絶えません。

解決策や改善案

●行政と民間の「つなぎ役」を強化

窓口に行きやすくする工夫として、2021年以降、東京都などでは「LINE相談」「夜間・休日窓口」「出張相談会」などが広がりつつあります(東京都福祉保健局発表 2023年5月)。民間NPOと行政の連携窓口も増えており、「声を上げやすい仕組み」「24時間緊急受付」といった多様な支援入口が整備されつつあります。

●多様な住まい方への支援

急変する状況に対応できるよう、短期間入れるシェルター、一時宿泊所やアパート型の「仮住まい支援」の充実が急がれています。東京都の例では、2022年度だけで2,300人以上が一時施設に入所し、そのうち68%が半年以内に自立アパートへ移行しました(東京都福祉保健局2023年度報告)。
ネットカフェ難民も包括的にカバーするよう制度改正が進行中です。

●生活保護申請のハードルを下げる

相談しやすさと、手続きの簡素化が重要です。厚生労働省は2023年、申請書類のネット対応、本人確認の柔軟化を通知。身分証のない場合も迅速な仮受付が進む自治体が増えています。さらに申請者のプライバシー確保やカウンセリング体制の強化も広がっています。

●医療・精神保健・就労サポートの多角的整備

単なる「寝場所確保」にとどまらず、医療・こころのケア・就労訓練といった多角的プログラムが必須です。NPO法人「ビッグイシュー基金」や「抱樸」は出所者の社会復帰支援や依存症者向けの専門ケースワーク等も展開し、再路上化を防ぐ実績を上げています(実績データはNPOウェブサイト公表分より)。

●支援継続と「孤立防止」へ

単に「寝場所を渡して終わり」ではなく、入所後の中長期的なフォロー、自助グループやコミュニティ作りの支援が大切です。「再びホームレスに戻らない」「自信と居場所を持って社会復帰できる」よう、自治体とNPOの協働が各地で進化中です。

●教育と社会啓発

社会全体への偏見解消・支援制度への理解増進に向けて、教育現場やメディアでの情報発信も重要です。厚生労働省は小中学校での「貧困・生活困窮教育」を推進中(2022年度 全国で957カ所)、公的機関や新聞も制度案内を強化しています。

 取材・公式データ・識者コメント・実例

近年、日経新聞、朝日新聞、NHKなど各メディアでは、「ホームレス支援」「生活困窮申請」に関する報道が増えています。

NHKの2022年特集「ホームレスからの再出発」では、45歳の男性が「失業と家賃滞納」で路上生活へ転落、区役所の一時保護を経て就労支援・市営住宅への入居に至った過程が詳細に紹介されています。また、福岡・大阪ほか大都市圏ではNPO「抱樸」等が、毎年2,000人規模の相談支援に取り組み、入所2カ月後の生活自立率は68.5%(2021年「抱樸」年次報告書より)と全国平均を大きく上回っています。

厚生労働省の数字でも、ホームレス(野宿者)の高齢化が顕著。令和5年調査では「65歳以上」が54.4%を占めています(厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査」2023年度)。一方で、「今後について“このままでいい”」と回答した人が41.2%、「安定した仕事/住まいがほしい」とした人が38.7%であり、困窮と希望のはざまで揺れる実情がうかがえます(沖縄タイムス「コトバとデータ」2022年11月記事より)。

専門家(東京大学社会福祉研究所教授 鈴木浩氏)からは「申請手続きの柔軟化と伴走型支援の継続強化が不可欠」と指摘があり、失業・精神疾患・家族関係の悪化など多因性で起きるホームレス化にきめ細かな相談体制が必須だとの見解です。

今後の展望や影響

今後、格差拡大や「見えない貧困」の深刻化が予想される中、ホームレス申請=生活困窮者への自助申告が、より身近なものになっていくでしょう。従来型の大都市路上型ホームレス対策から、「ネットカフェ暮らし」「転居できない高齢単身者」「DV被害による住居喪失」など多様な背景を持つ人たちへのセーフティネットへと軸足が移りつつあります。

また、AIやデジタル窓口の導入で「申請の簡素化」が進むほか、民間NPOとの協働が一層重要になると考えられます。一方で、コロナ禍や物価高騰など、社会・経済ショックが増えるほど、社会的孤立をどう未然に防ぐか、支援制度の持続的拡充と制度周知が課題となります。

アドバイス・ヒント

  • いざという時のため、地域の「福祉課」「自立相談支援センター」連絡先をスマホや手帳に控えておく
  • 困ったら1人で抱えず、公的機関やNPOの相談窓口へ早めにアクセスする
  • 身分証や大事な書類は写真データで保管・バックアップ
  • ネットだけでなく、家族や知人にも「困ったら相談してほしい」と声をかけておく
  • SNSやニュースで最新の支援制度や無料相談会情報をチェックする

まとめ

「ホームレス申請」は、恥ずかしいことでも特殊なことでもありません。急な病気、職場のトラブル、家庭崩壊や災害…。どんな人にも起こり得る「生きるうえでの壁」です。実際、娘が申請窓口に助けを求めたとき、家族全体で戸惑いを覚えましたが、行政の方や地域の支援団体のサポートに救われた面も大きかったと振り返ります。

日本の社会保障・セーフティネットは、まだまだ課題は多いものの、着実に改善し続けています。「必要なとき、遠慮せず頼る」ことの大切さ、困っている人に「申請していい」「あなたのせいじゃない」と伝える社会のあたたかさ。それが、ホームレス申請の積極的意義なのだと強く確信します。

 

参考文献・引用元リスト

  1. [ホームレス支援の”今”を知る。国と民間それぞれで広がる支援の輪(note): https://note.com/actionforall/n/n1ba4f3747226 ]
  2. [厚生労働省 「ホームレスの実態に関する全国調査」令和5年(2023年): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148957.html ]
  3. [沖縄タイムス「今のままでいい」4割 ホームレス実態調査: https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/975149 ]
  4. [NHKオンライン特集「ホームレスからの再出発」: https://www.nhk.or.jp/shutoken/ohayo/report/20221104c.html ]
  5. [東京都福祉保健局プレスリリース: https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/ ]
  6. [特定非営利活動法人 抱樸(ほうぼく) : https://www.houboku.net/ ]

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