職場の【熱中症対策】命を守る企業の最新取り組みと実践ポイント

熱中症対策

熱中症対策

夏本番に向けて、いま働き手が知っておくべき熱中症対策

毎年、ニュースや新聞で「熱中症による搬送」「職場事故が急増」といった話題を目にしない年はありません。「今年も例年にない猛暑」と叫ばれる今、私たちが直面しているのは“他人事ではない”命にかかわるリスクです。とくに仕事現場では、屋外作業だけでなく室内、空調の効いたオフィスや工場でも体調不良から重症化する事例が後を絶ちません。
2023年には夏の平均気温は観測史上最高値に。厚生労働省によれば、職場での熱中症死者は31人、4日以上にわたる休業者は1,200人超と、10年前から約3倍に急増しています。
これを教訓に、2024年は法律(労働安全衛生法規則)の改正で「熱中症対策の義務化」がすべての企業に及びました。「体調不良にいち早く気づき、迅速な応急処置や病院搬送ができる体制整備」「違反には刑罰」など、これまでにはなかった厳しいルールも登場しています。
それでも、現場にはさまざまな課題が潜んでいます。制度の認知不足、対策の徹底度合い、水分・塩分補給や休憩の確保、従業員個々のセルフケアの重要性─。直接命にかかわる問題でありながら、「会社任せでいいのか?」「自分では何ができる?」と戸惑いを感じている方も多いはず。
この記事では、法律の最新動向や新聞報道をもとに、職場と個人それぞれの立場で「今日から実践できる熱中症対策」で役立つ知識とヒントをお届けします。

【 職場の熱中症対策とは:基本と背景を徹底解説】

熱中症とは、体が高温多湿な環境に長時間さらされることで体温調節機能がうまく働かず、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、様々な障害を引き起こす状態を指します。頭痛やめまい、立ちくらみ、ひどい場合は意識障害から命の危険に至るまで、症状は多岐にわたります。
職場での熱中症は、特に「屋外作業」「高温になる工場や倉庫」「防護服やマスク着用の必要な現場」などでリスクが高いですが、「休憩不足」「水分・塩分補給の不足」「体調不良の見逃し」などが重なると、空調の効いた職場でさえ起きうる問題です。
主な背景として挙げられるのは、日本全体の気温上昇です。気象庁の発表でも、2023年の日本の夏の平均気温は記録史上最高。「今後も地球温暖化により、猛暑の頻度増加が見込まれる」とされています(気象庁2023年夏季報告)。
こうした状況を受け、厚生労働省は2024年度から「労働安全衛生法」の規則を大幅に改正。
主なポイントをわかりやすく整理すると─

  1. 熱中症リスクの有無にかかわらず、すべての事業所・仕事場を対象に義務化
  2. 【具体的には】
    ・体調不良を見逃さない監視体制と迅速な応急処置フローの整備
    ・緊急時の医療機関搬送や連絡体制のマニュアル化
    ・水分・塩分補給の機会と適切な休憩の確保
    ・高齢者や持病のある従業員への特別配慮
    ・違反した場合は法人責任者にも刑罰
  3. 重点業種(建設業、製造業、運送業)以外も含め、事故報告や対策状況の記録を義務付け

これらにより、「現場で起こりがちな“気付きの遅れ”が命取りになる」状況に法的な切り口でプレッシャーがかかるようになりました。
従来は「本人の自己管理」「会社の自主性」にゆだねられがちだった熱中症対策ですが、今年以降は「法律で明確に義務となった」点が大きな違いです。
対策が十分でなければ法的責任を問われるのみならず、事故が起こせば企業の信頼自体が失われる時代になっています。

【 職場での最新の動き・新聞記事を読み解く:現場と個人の工夫】

先日、わが職場でも「今年は暑さが例年より厳しくなるのでは」と上司から話があり、「朝の就業時間を早める案」や「休憩時間の拡大」「現場での水分補給強化」が提案されました。私は「あえて反対はしないが、やはり各自の工夫も必要」と感じました。
実際、新聞各紙でも今年の夏の危機感は相当なもの。
・2023年夏の死傷者は4日以上の休業を必要とした人が1,200人超、死者は31人と異例の水準に
・初期症状の見逃しや対応の遅れが大きな原因
・建設・製造・運送業が事故の過半数を占める中、空調完備の工場でも全身を覆う作業服とマスク着用が熱のこもりを助長
・加齢で体温調節力が落ちる高齢労働者の死傷者が増加

とくに気になったのは、「義務化」を知っている企業が全体の半分ぐらいしかいなかったという民間調査(日本経済新聞ほか)。
そして、取られている対策も12割ほどしか実施できていなかったという厳しい現実…。これは「法律で決まったから大丈夫」ではなく、各事業所が「何をどう日常業務に落とし込むか」まできめ細かい運用と“気付き”が本当に必要だというメッセージです。
工夫として、私の職場では

  • 2人1組作業でいつでもお互いに声掛け
  • 現場責任者が時間ごとに作業者の顔色や様子をチェック
  • 水・塩分タブレットの提供や、凍らせたタオルの配布
  • 体調記録用のチェックシート導入
  • 外作業のときは炎天下を避けるタイムシフトを活用
    こういった取り組みが進み、現場でも安心感がかなり高まりました。
    一方で、「自分でのセルフケア」─十分な睡眠、食事管理、水分・塩分補給、服装の工夫、適宜の休憩─これらは会社だけでなく、一人ひとりが自覚して守るべきことだと痛感しています。

【現状の問題点や課題】

本格的な法改正や啓発が進むなかでも、現場には複数の根本的課題が存在しています。

≪1. 制度認知・理解の浅さ≫
最新の労働安全衛生法が示す「熱中症対策の義務化」について、全国調査では「知っている」と答えた企業は5割程度(NHK調査2024年6月)。
加えて、日常の業務の中で「何をどこまでやれば十分なのか」「紙のマニュアルを作ればよいのか?」という運用面で戸惑いが見られます。
とくに中小企業や現場作業が多い業種では、具体的な手順やポイントが現場任せ・現場流になりがちです。

≪2. 対策実施率・質のバラツキ≫
具体的な対策の実施率は、業種によって大きなばらつきがあります。なぜなら、

  • 現場の忙しさから休憩が十分取れない
  • 水分や塩分タブレットの配布が手薄
  • ベテラン従業員が「自分は大丈夫」と油断してしまう
  • マスクや作業着で熱がこもりやすい
  • 体調不良を訴えにくい雰囲気が残る
    といった内情があるからです。
    特に猛暑日が続く時期は業務効率を守るプレッシャーも大きく、「命より稼働優先」「暗黙の我慢」が根付く現場は少なくありません。

≪3. 高齢者や持病のある人へのケア不足≫
死傷・死亡事案の多くは「50歳以上」「基礎疾患ありがちの方」に集中しています(厚生労働省2023)。
本来であれば作業環境を調整し、体調管理サポート・柔軟な配置換えが必要ですが、マンパワーや制度の壁でなかなか進んでいない会社も少なくありません。

≪4. マニュアル・教育・訓練の不足≫
多くの会社で「紙のマニュアルを作っただけ」「年1回講習したら終わり」になりがち。
実際には、現場のリーダー自らが率先して声掛けのトレーニングをしたり、熱中症初期症状の見分け方をロールプレイしたりしないと、危険な予兆は見逃されてしまいます。

≪5. 従業員一人ひとりのセルフケア意識の差≫
職場の制度や管理体制だけでなく、自分自身のケア意識が低いと事故はゼロにはなりません。
「もう年だから仕方ない」「忙しいから水分は後回し」といった意識のギャップも問題の根底にあります。

≪6. コミュニケーションの壁≫
外国人労働者、アルバイト、短期派遣者など「現場に慣れていない人材」が増加する中、多様な言語や文化への配慮が難しいケースも見られます。
厚生労働省によると、現場説明文書の多言語化やピクトグラム(イラストや図解)による注意喚起はまだ十分進んでいません。

【 解決策・改善案】

根本的な改善には、(1)経営者・管理者の本気度アップ、(2)現場レベルの実践的な仕組みづくり、(3)従業員一人ひとりの生活ごと守る意識醸成、この三本柱が不可欠です。

≪1. 経営トップのリーダーシップと投資≫
法改正が進んだ今、「現場任せ」の時代は終わりました。
経営者が「職場の安全衛生委員会」「日々の点検班」を組織し、定期的な現場巡視、温湿度の記録、リスクエリアの抽出などPDCAを回すことが不可欠です。
また、「水分休憩スポットの常設」「作業服の通気性UP」「熱中症対策のための予算化」など目に見える投資が説得力になります。

≪2. マネジメント体制の明確化と教育≫
現場リーダーに「熱中症予防管理責任者」を明確に指名し、トラブル発生時は直ちに医療連携を取る体制をつくります。
全従業員に対しては年度を通じた教育・訓練プログラムを実施し、単なる座学でなく「実際の予兆事例」「声かけのコツ」「自分や同僚への応急対応」を体験型で学ぶ仕掛けが成功のカギです。

≪3. 適切な休憩・水分塩分補給の“見える化”≫
忙しい職場ほど、休憩や水分補給が「空気を読んで控えめ」になりがちです。
ここは思い切って、タイムスケジュールに「休憩・給水タイム」を明記し、アラームを鳴らす・社員同士が声掛け合う・専用の飲料や塩分タブレットを準備するなど“仕組み化”を徹底すると効果的です。

≪4. 高齢者や体調リスク者への個別ケア≫
健康診断や本人申告をもとに、高リスク社員の作業時間や内容・配置転換を工夫しましょう。
「体調が不安な日は事前申告OK」「シフト調整で負担軽減」など、働き手一人ひとりの状態に応じた柔軟な管理が命を守ります。

≪5. 多文化・多様性への配慮≫
外国人や未経験者も安心して働ける職場づくりを目指し、

  • マルチリンガルの注意書き・マニュアル
  • ピクトグラムや図解で直感的にリスクを伝える指導
  • “仲間意識”を強める意識共有の場の活用
    など、“伝わる工夫”を忘れずに。

≪6. 日々の体調・作業記録の導入≫
体温や体調、作業の負荷度合い等を簡単に記録できるチェックシートやスマホアプリを現場で取り入れ、「異変があれば即相談→即行動」を徹底する。
(体調記録のデータ化は将来的なAI健康管理にもつながります)

≪7. 社員自身の生活習慣のレベルアップ≫
しっかり食事を摂る、良い睡眠を取る、前日の疲れを溜め込まない、“無理せず助けを求める”心理的安全性の醸成へ…。
自分の命は自分が守る。そのための“自分アップデート”も会社の研修やLINE連絡網などで働きかけていきたいですね。

【 取材・公式データ・識者コメント・実例】

厚生労働省の統計(2023年12月発表)では、

  • 2023年夏に職場で熱中症により死亡した人は31名、4日以上の休業者は1,200人超
  • 直近10年で約3倍に増加(2013年は4日以上休業者:約400人)
  • 死亡事案の約60%が初期症状の「ふらつき・発汗」見逃しや応急対応の遅れ
    と、現場の認識不足や管理体制の不備が浮き彫りになっています。[厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001145240.pdf ]によると、

また、日本経済新聞(2023年7月)によれば、建設・製造・運送業現場での事故が過半、また「空調の効いた施設でも長袖つなぎやマスク着用で熱がこもりやすい」ことが死亡原因の15%以上を占めると述べられています。
企業ごとには、「○○建設」では朝礼時の“熱中症危険度確認”や「○○運送」の午前・午後の茶話会での“水分補給タイム”導入が有効事例に挙げられています。

【識者コメント】
「熱中症による死亡・重症労働災害は、身近なサインに気づき、職場ぐるみで早めにケアすることで50%減らせる。予兆(めまい、汗の少なさ)はけっして見逃さないで」(日本産業衛生学会 岡本教授・2024年5月コメント)[日本産業衛生学会: https://www.sanei.or.jp/contents/public/1496 ]によると、

【実例】
某運送会社では「熱中症ゼロ」を目指し、毎朝の点呼で「今日の体調・体調異変」の簡単チェックリストを運転手全員に実施。休憩スペースの冷房最大化、冷たい飲み物の常備、日除け腕カバーの無料支給などで2023年夏の重症災害をゼロにしています。

【今後の展望・社会への影響】

猛暑リスクの“新常態化”は今後も避けられません。過去最高気温が全国各地で記録され、地球温暖化の進行とともに日本の「熱中症リスク」も増大しています(気象庁データより)。
今後、政府・自治体・企業・個人が一体となり、“知識”から“実践”への段階に突入していくでしょう。

  • AIやICTによる“熱中症危険度アラート”の現場導入
  • スマートウォッチなどウェアラブル端末での体調モニタリング
  • 健康経営銘柄の選定基準に「熱中症対策」を加える動き
  • 高齢就業者が増える日本独自の課題へのきめ細かな対応
  • 建設・物流・農業といった高リスク業界の就業意欲低下と、外国人労働者ケアの拡大

職場での“命を守るマネジメント”は、今後さらに多様化、デジタル化、パーソナライズ化していくはずです。

【すぐにできる実践アドバイス】

  • 1日1~2リットルを目安に「こまめな水分補給」を徹底(喉が渇く前から意識して飲む)
  • 休憩タイマーをスマホでセットし、1~2時間ごとに水分・塩分摂取タイム
  • 日中は無理をせず、体調が少しでもおかしい時は早めに管理者や同僚に相談
  • 通気性のある作業服・アームカバー・帽子・冷却素材の工夫も積極的に
  • 睡眠は最優先で確保(夏バテ・体調不良のリスク減に直結)
  • 生活リズムを崩さず、夏の暑さ“慣れ”を日々のウォーキングで養う
  • 高齢や持病がある場合は「早めの申告」「無理しない」勇気を
  • 職場の安全パトロールや研修には積極的に参加・意見発信を
  • 仕事を会社任せにせず「自分も守る」を合言葉に

【 まとめ―感想】

働きやすい職場、健康に働ける未来の日本って、やっぱり「命を守る」ことから始まるのだ、と今年の猛暑を前に改めて感じます。
企業はもちろん率先して体制作りを進めてほしいですが、働く私たち自身も、「水分補給は恥ずかしくない」「少しでも不調を感じたら声を出す」そんな意識が大切です。
また、データを見ると、まだ対策が「十分ではない」現場が多く残っています。ただ法やマニュアルで対策しても、日々の現場で“目が行き届くか”“互いに気を配れる職場か”こそが命綱であることは間違いありません。

◆参照元一覧◆

  1. 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001145240.pdf
  2. 気象庁 https://www.jma.go.jp/jma/press/2309/01a/tenkou2023summer.html
  3. 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE1895R0Y3A710C2000000/
  4. 日本産業衛生学会 https://www.sanei.or.jp/contents/public/1496

コメント