【岡麓】の生涯と作品『5選』明治・昭和を彩った歌人と書家の軌跡

赤い薔薇

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岡麓(おかふもと)の経歴と人柄 ― 幕末から昭和へ生きた歌人の実像

岡麓(本名:三郎)は1877年(明治10年)3月3日、東京で生まれた歌人・書家です。彼は、江戸幕府の御殿医であった岡良節の三男として、安定した武家社会の家に生を受けました。家督は継いだものの、医師にはならず、学院教育の道を経て独自の人生を歩みます。

幼少期の教育と精神

幼くして文学や漢詩、和歌に親しみ、「第二次大戦末期の疎開までずっと東京市内に住む」という江戸っ子気質を持ち続けていました。東京府立第一中学校を中退後、大八洲学校、精義塾などで和歌・国文・漢文を基礎から徹底して学んだことは、彼の人格形成に大いに寄与しました。また、書家としても知られ、多田親愛から書を学び、書道に対し並々ならぬ熱意を示したといわれます(『日本近代文学大事典』講談社より)。

正岡子規の門下生として

1898年、21歳のときに正岡子規に師事したことは、岡麓の歌人人生における大きな転機となりました。子規は当時、斬新な短歌革新運動「写生」(ありのままを詠む手法)を提唱しており、岡麓も「アララギ」同人として、「写生的和歌」の実践者として活躍しました。1916年には正式にアララギ同人となり、近代和歌の発展に尽力しました。

家族、そして晩年の人柄

代々江戸に根付いた家系で、温和で努力家の性格だったと言われています。第二次大戦が激化すると、信州安曇野の会染村内鎌へ疎開しますが、晩年まで筆を折らずに歌と書に尽くしました。彼の作品からは、「自然と人間の融和」を感じる一方、時代の移り変わりに対する哀愁も読み取れます。1951年(昭和26年)、74歳で亡くなるまで、その生涯を文学にささげました(『日本文学研究資料新集』有精堂出版より)。

当時の時代背景や社会情勢

岡麓が生きた時代は、明治10年~昭和26年(1877年〜1951年)にまたがります。これは、明治維新による近代国家の形成、日清・日露戦争、関東大震災、そして2度の世界大戦を含みます。明治期は欧米の制度・文化を積極的に導入し、急速な工業化と社会変化が進みました。国民皆学のもと教育制度が充実し、「和歌」や「漢詩」など日本古来の文化と西洋文化が融合し始めました(「国立国会図書館デジタルコレクション」による)。

日清(1894-95)、日露(1904-05)戦争の勝利は日本の国際的地位を飛躍的に向上させました。その一方、農村社会の変化や都市部の過密化も進展し、貧富の差や社会的不安が拡大。1912年の大正時代突入後は自由主義・大正デモクラシーの流れにより思想や表現の自由が拡がりますが、昭和期(1926-)には世界恐慌、軍国主義化、そして太平洋戦争と続く波乱の時代へ移行しました。1945年の敗戦後、日本はGHQの占領政策の下で民主主義国家として再出発を果たします。

岡麓もまた、時代の大きなうねりと共に近代短歌運動に身を置き、伝統と革新のはざまで独自の表現を追求。明治・大正・昭和の大動乱期を、歌と書とで生き抜いた人物です。

引用:「講談社 日本歴史年表」2021年版 / 『明治・大正・昭和史』岩波書店 2020)

歌集の年代順

(刊行年が明示されているもののみ記載)。

  1. 『岡麓歌集』(1917年刊)
  2. 『柳絮集』(1928年刊)
  3. 『甍曲』(1936年刊)

(参考:「国立国会図書館デジタルコレクション」)

【引用元一覧】

  • 『日本近代文学大事典』講談社
  • 『日本文学研究資料新集』有精堂出版
  • 「講談社 日本歴史年表」2021年版
  • 『明治・大正・昭和史』岩波書店 2020
  • 「国立国会図書館デジタルコレクション」

岡麓 短歌

わが家の焼けたる趾に立ちておもふ焼きてはすまぬものを焼きけり 『灰燼集』

青き葉のひろごるかげに無花果のむすびし実をば知らでありけり『庭苔』

かどにいでてとりし蛍を葱の葉の筒に透して孫のよろこぶ 『涌井』

さすらひの雨露のしのぎの家ごもり土ひとつからだにままならず 『冬空』

稲の穂が早立ちぬとか夏も過ぎ月日も知らに病み臥せるかも 『雪間草』

 

◆参照元一覧◆

  1. 講談社 日本近代文学大事典 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3037154
  2. 有精堂出版 日本文学研究資料新集 https://www.useido-shoten.co.jp/
  3. 講談社 日本歴史年表 https://www.kodansha.co.jp/
  4. 岩波書店 明治・大正・昭和史 https://www.iwanami.co.jp/book/b263799.html
  5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/

 

 

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