水原 紫苑 (みずはら しおん)
1959年~ 神奈川県横浜市生まれ。 歌人。
早稲田大学第一文学部仏文科卒業。同大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。
1986年より「中部短歌会」に入会。春日井建に師事。
リアリズムを廃し徹底して美にこだわった言葉の集まりにより注目をあつめる。1989年に第1歌集『びあんか』を刊行。1990年、現代歌人協会賞受賞。
水原 紫苑 歌集
1989年 『びあんか』(雁書館)
1992年 『うたうら』(雁書館)
1997年 『客人』(河出書房新社)(2015年 沖積舎)
1999年 『くわんおん』(河出書房新社)
2001年 『いろせ』(短歌研究社)
2003年 『世阿弥の墓』(河出書房新社)
2004年 『あかるたへ』(河出書房新社)
2009年 『さくらさねさし』(角川書店)
2011年 『武悪のひとへ』(本阿弥書店)
2014年 『びあんか|うたうら【決定版】』(深夜叢書社)
2015年 『光儀(すがた)』(砂子屋書房)
2017年 『えぴすとれー』(本阿弥書店)
2020年 『如何なる花束にも無き花を』(本阿弥書店)
水原 紫苑 短歌
美しき脚折るときに哲学は流れいでたり劫初馬より 『びあんか』
炎天に白薔薇断つのちふかきしづけさありて刃傷めり
殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉 ゆけ
坂くだる少女の爪のはらはらと散るくれなゐを聴きつつゆくも
菜の花の黄溢れたりゆふぐれの素焼の壺に処女のからだに
針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ
星あらぬ空を戴き山上に眠れり触れしその夜のごと
胸びれのはつか重たき秋の日や橋の上にて逢はな おとうと
やはらかき紫煙の中に舞ひゐたる微小の鳥の微小のまなこ
宥されてわれは産みたし 硝子・貝・時計のやうに響きあふ子ら
浴身のしづけさをもて真昼間の電車は河にかかりゆくなり
われらかつて魚なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる
高層の窓に降る雪生まれ来ていまだをさなしその黒瞳見ゆ 『うたうら』
紅葉の奥なる〈秋〉のししむらは朽ち果つるまで白かりなむか
炎天をブッダ歩めるうしろより踊り来たれり印度の果実 『客人』
絹につつむ乳房さやけし路上なる黒き袋と交信をせり
くちびるとふ二片の紅、笛方と笛のあはひをただよふあはれ
椎の木の梢に女優ひとりみて死にゆくときにひかる椎の実
すめろぎは李白読みしか かうかうと梨照らす夜半の光いづこより
畳のへりがみな起ち上がり讃美歌を高らか にうたふ窓きよき日よ
冬あざみ天を刺すべし在り得ざる角度に腕いづる恋人
まなこ光る墓石たらむ帯締めて黒き紬に四肢をかくせば
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